保育所児童保育要録の書き方|5領域と「10の姿」で書く記入例と、手が止まらないための考え方
この記事は2026年7月時点の情報をもとにしています。
3月。子どもたちが帰ったあとの、静かな保育室。机の上に、白紙の要録の様式が一枚あります。名前の欄まではすぐ書けました。でも、そこから先で手が止まる。
「10の姿って、どうやって文章にするんだろう」「できないことは、書いていいのかな」「これ、小学校の先生に読まれるんだよな」。一つの欄を埋めるのに何十分もかかって、気づけば持ち帰りの残業になっている。
その手が止まる感じ、よくわかります。私も、初めて要録を任されたときは、様式の前で長いこと固まっていました。要録は、書き方の「考え方」さえつかめれば、少しずつ手が動くようになります。この記事では、誰が・いつ・何を書くのかから、5領域と「10の姿」の使い方、そして「できる・できない」で書かない理由まで、順番に整理します。
保育所児童保育要録とは?誰が・いつ・何のために書くのか
保育所児童保育要録とは、こども家庭庁「保育所児童保育要録に記載する事項」によれば、最終年度の1年間の保育の過程と子どもの育ちを要約し、就学に際して保育所と小学校が情報を共有するための資料です。子どもの育ちを、園から小学校へと途切れさせずに支えるために使われます。
ここでいう「最終年度」とは、小学校就学の始期に達する直前の年度、つまり5歳児(年長)クラスの1年間のことです。書くのは、その最終年度を受け持った担任で、こども家庭庁「保育所保育指針の適用に際しての留意事項について」では、施設長の責任のもとで作成することとされています。様式にはこども家庭庁「保育所児童保育要録に記載する事項」のとおり施設長の氏名と担当保育士の氏名を書く欄があります。担任ひとりの責任で抱え込む書類ではありません。
そうなんです。読む相手は、これからその子を受け持つ小学校の先生です。だから「園の中だけで通じる書き方」ではなく、事情を知らない人が読んでも子どもの育ちが伝わる書き方が求められます。この「読み手が誰か」を思い出すだけでも、書く言葉が少し選びやすくなります。
様式は2枚 「入所に関する記録」と「保育に関する記録」に何を書くか
こども家庭庁「保育所児童保育要録 様式の参考例」によれば、要録の様式は、大きく2枚に分かれています。それぞれ役割が違います。
| 様式 | 主に書く内容 |
|---|---|
| 入所に関する記録 | 児童の氏名・性別・生年月日・現住所、保護者の氏名・現住所、保育期間(入所・卒所の年月日)、就学先(小学校名)、保育所名・所在地、施設長・担当保育士の氏名 |
| 保育に関する記録 | その子の1年間の育ちを言葉でまとめる部分(下記のとおり内容が分かれる) |
「入所に関する記録」は事実を書き写す欄が中心なので、迷いにくい部分です。手が止まるのは、たいてい「保育に関する記録」のほうです。ここは、さらに次のように分かれています。
- 1. 保育の過程と子どもの育ちに関する事項
- (1)最終年度の重点
- (2)個人の重点
- (3)保育の展開と子どもの育ち
- (4)特に配慮すべき事項
- 2. 最終年度に至るまでの育ちに関する事項
言葉で書く欄はこれだけあります。次からは、特に迷いやすい欄を一つずつ見ていきます。
「最終年度の重点」と「個人の重点」はどう違う?書き分けのコツ
この2つは名前が似ているので、同じことを2回書いてしまいがちです。でも、見ている対象が違います。
| 欄 | 何を書くか(公式の説明) | 視点 |
|---|---|---|
| 最終年度の重点 | 年度当初に、全体的な計画に基づき長期の見通しとして設定したもの | クラス全体の、その年のねらい |
| 個人の重点 | 1年間を振り返って、子どもの指導について特に重視してきた点 | その子ひとりに向けたこと |
つまり「最終年度の重点」はクラス全体の話、「個人の重点」はその子ひとりの話です。書き分けるコツは、主語を意識することです。最終年度の重点は「このクラスで1年間かけて大切にしたこと」、個人の重点は「この子に対して、特に心をかけて関わってきたこと」を書きます。
最終年度の重点は、年度末に急いで考えるものではありません。年度当初に立てた年間の見通しが、そのまま土台になります。4月に「今年はこういう1年にしたい」と考えたことを思い出すと、書きやすくなります。
もう一つ、「特に配慮すべき事項」という欄があります。こども家庭庁「保育所児童保育要録に記載する事項」によれば、これは子どもの健康の状況など、就学後の指導で配慮が必要なこととして特記すべきことがある場合に記入する欄です。書くことがなければ無理に埋める欄ではありません。
「保育の展開と子どもの育ち」を5領域のねらいから書く(記入例つき)
「保育の展開と子どもの育ち」は、要録の中心になる部分です。こども家庭庁「保育所児童保育要録に記載する事項」によれば、ここは保育所保育指針の第2章にある各領域のねらいを「発達を捉える視点」として使い、その子の発達の実情から、向上が著しいと思われるものを書きます。
その視点になるのが、厚生労働省「保育所保育指針」第2章に示された5つの領域です。
| 5領域 | 発達を捉える視点 |
|---|---|
| 健康 | 心と体の健康、生活に必要な習慣や態度 |
| 人間関係 | 身近な人との関わり、自立や協同する力 |
| 環境 | 身近な環境への好奇心や、関わる力 |
| 言葉 | 言葉で伝え合う力、聞く・話す力 |
| 表現 | 感じたことや考えたことを表現する力 |
大切なのは、5つの領域を項目ごとに区切って一つずつ埋めることではありません。その子の1年間の育ちを、これらの視点を手がかりにしながら、ひとつながりの文章として書いていきます。
たとえば、次のように書けます。
友達と目的を共有して遊びを進める中で、思うようにいかない場面でも相手の思いに気づき、言葉で伝え合いながら折り合いをつけようとする姿が見られるようになった。
この一文には、人間関係(友達と協同する)、言葉(伝え合う)といった視点が自然に溶け込んでいます。領域名を見出しのように並べるのではなく、実際に見たその子の姿を、領域の視点で言葉にしていく。それが「保育の展開と子どもの育ち」の書き方です。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」はどう活用する?
近年の要録でつまずきの中心になっているのが、この「10の姿」です。正式には「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」といい、厚生労働省「保育所保育指針」の第1章に示されています。次の10です。
| No. | 幼児期の終わりまでに育ってほしい姿 |
|---|---|
| 1 | 健康な心と体 |
| 2 | 自立心 |
| 3 | 協同性 |
| 4 | 道徳性・規範意識の芽生え |
| 5 | 社会生活との関わり |
| 6 | 思考力の芽生え |
| 7 | 自然との関わり・生命尊重 |
| 8 | 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚 |
| 9 | 言葉による伝え合い |
| 10 | 豊かな感性と表現 |
ここで一番大事なことを、先にお伝えします。こども家庭庁「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿について」によれば、10の姿は、到達すべき目標ではありません。すべての子どもに同じように見られるものでもありません。だから、10項目を一つずつチェックして埋めていく使い方は、そもそも想定されていません。
使い方は、こうです。その子の育ちを全体的・総合的に思い浮かべたときに、「この場面は、協同性が育ってきた姿だな」「これは思考力の芽生えだな」と、見えた姿を言葉にするための手がかりにする。10の姿は、育ちを見つける「ものさし」ではなく「レンズ」だと考えると、力が抜けます。無理に10個そろえなくていいのです。
なぜ「できる・できない」で書いてはいけないのか NG表現とOK表現
要録で最も気をつけたいのが、ここです。こども家庭庁「保育所児童保育要録に記載する事項」のとおり、要録は、他の子との比較や、達成度の評定で子どもを捉えるものではありません。「できる・できない」で書かないのは、そういう理由からです。
要録に書くのは、到達した結果ではなく「育ちつつある姿」です。そして、それが小学校の指導に生かされるよう、わかりやすく書きます。同じ場面でも、書き方でこう変わります。
| NG(評定・比較で書く) | OK(育ちつつある姿で書く) |
|---|---|
| ひらがなが読めない | 身近な文字に関心を持ち、看板や絵本の文字を読もうとする姿が増えてきた |
| 友達とよくトラブルになる | 自分の思いをぶつけながらも、相手の気持ちに気づき、言葉で伝え合おうとし始めている |
| まだ一人で着替えができない | 時間はかかるが、自分でやろうとする気持ちが育ち、難しい部分は「手伝って」と伝えられる |
NG欄はどれも「今できていないこと」を点数のように書いています。OK欄は「どの方向に育っているか」を書いています。読んだ小学校の先生が、次にどう関われば伸びるかをイメージできるのは、後者です。
子どもの姿を、事実に沿って、そして肯定的な方向で書く言い回しは、日々の連絡帳の文章の書き方と同じ考え方が使えます。連絡帳で「困った出来事」を「育ちの一場面」として書き換える練習をしておくと、要録の言葉も自然に出てきます。
いつまでに、どう小学校へ送る?提出時期・送付・保存の実務
作成した要録(保育に関する記録)は、就学に際して、抄本または写しを就学先の小学校へ送ります(こども家庭庁「保育所保育指針の適用に際しての留意事項について」)。これが、園と小学校をつなぐ幼保小連携の大切な部分です。
ただし、提出の具体的な期日を法律で一律に定めた規定はありません。原本を送るのか写し(抄本)を送るのかについては、上記の通知で「写し(抄本)を送付し、原本は保育所で子どもが小学校を卒業するまで保存することが望ましい」という国の基準が示されていますが、これは自治体を法的に拘束する規定ではなく、技術的な助言という位置づけです。具体的な運用は、この基準をもとに市町村(自治体)や園が定めます。ここは、思い込みで進めず、確認が必要な部分です。
- 提出の時期:多くの園では1〜3月ごろに作成・送付する傾向がありますが、決まった1日があるわけではありません。園や自治体のスケジュールに合わせます。
- 原本か写しか、保存期間:国の基準では写し(抄本)を送付し原本は小学校卒業まで保存することが望ましいとされていますが、法的な義務ではないため、具体的な年数や手順は市町村(自治体)や園が定めます。お住まいの自治体・園の定めに従ってください。
運用の例として、横浜市「横浜市保育所児童保育要録の取扱い・記入について」では、原本を園で保管し、小学校へは写しを送付、原本は小学校卒業まで(6年間)保存すると定めています。ただしこれはあくまで一つの自治体の例で、地域によって扱いは変わります。自分の園と自治体のルールを、必ず確認してください。
書き始める前の準備 日々の記録・個人記録を要録につなぐ
要録の前で手が止まる一番の理由は、書く技術というより「材料が手元にない」ことだったりします。1年間の育ちを、年度末に記憶だけで思い出そうとするから、真っ白な様式が重く感じるのです。
だから、要録づくりは3月に始まるのではありません。毎日の記録や個人記録、そして指導計画(指導案)や毎月の月案の積み重ねが、そのまま要録の材料になります。次のようなものを見返すと、書く言葉が見つかります。
- 個人記録や発達の記録(月ごと・期ごとに残してきたもの)
- 連絡帳の控えや、日々の保育日誌で「印象に残った場面」を書いた部分
- 行事や活動での、その子の変化のエピソード
これらを読み返し、「この子は1年でどこが伸びたか」を先に一言でメモしてから、様式に向かう。その順番にするだけで、手の止まる時間がぐっと減ります。完璧な文章を最初から書こうとせず、まずは見たことのメモから始めて大丈夫です。
参考: こども家庭庁「保育所児童保育要録に記載する事項」、厚生労働省「保育所保育指針」(平成29年告示・平成30年適用)
この記事についてよくある質問
保育所児童保育要録は誰が書くのですか?
最終年度(5歳児・年長)クラスの担任が書きます。こども家庭庁「保育所保育指針の適用に際しての留意事項について」により、施設長の責任のもとで作成し、様式には施設長の氏名と担当保育士の氏名を書く欄があります。担任ひとりで抱え込む書類ではありません。
いつ書いて、いつ小学校へ提出するのですか?
就学に向けて年度末に作成し、こども家庭庁「保育所保育指針の適用に際しての留意事項について」に基づき、抄本または写しを就学先の小学校へ送ります。提出の時期は多くの園で1〜3月ごろとされますが、全国一律の決まった日はなく、園や自治体のスケジュールに合わせます。
「10の姿」は10項目すべてを埋めるのですか?
いいえ。こども家庭庁「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿について」によれば、10の姿は到達すべき目標ではなく、すべての子どもに同じように見られるものでもありません。項目ごとに埋めるのではなく、その子の育ちを全体的・総合的に捉え、見えた姿を書くための手がかりとして使います。
「できないこと」を書いてもいいのですか?
こども家庭庁「保育所児童保育要録に記載する事項」のとおり、他の子との比較や、できる・できないの評定で書くものではありません。「まだ〇〇できない」ではなく、「〇〇に向かって育ちつつある姿」として、小学校の指導に生かせるように書きます。
要録の保存期間はどれくらいですか?
国の基準(こども家庭庁「保育所保育指針の適用に際しての留意事項について」)では、写し(抄本)を送付し、原本は保育所で子どもが小学校を卒業するまで保存することが望ましいとされていますが、法的な義務ではないため、具体的な保存年数や手順は市町村(自治体)や園が定めます。お住まいの自治体・園の定めに従ってください。例えば横浜市「横浜市保育所児童保育要録の取扱い・記入について」では、原本を園で保管し小学校へは写しを送付、原本を6年間保存すると定めています。