園長のパワハラに悩む保育士へ|線引きと、証拠の残し方
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「あなたは保育士に向いていないわよ」
みんなの前で園長にそう言われた日のことを、いまでも覚えています。
筆者の私は保育士歴20年。関西で生まれ、大阪で長く保育士として現場に立ち、いまは関東に移ってこうして文章を書いています。その20年のあいだに、高圧的な園長のもとで働いた時期がありました。何を言っても否定され、ため息をつかれ、ほかの職員の前で叱責される。出勤前に動悸がして、これは自分が弱いせいなのか、それとも職場がおかしいのか、ずっと分からないままでした。
当時の私は「園長に逆らったら居場所がなくなる」と思い込んでいました。でも、その思い込みこそが、状況を一番こじらせていたのだと、いまなら分かります。
この記事では、園長の言動がどこからパワハラに当たるのかという線引きと、私が実際にそのパワハラ園長に対して取った行動を、順を追ってお伝えします。法律の話も出てきますが、できるだけ正確に、そして「明日からできること」に絞って整理しました。
園長の言動はどこからパワハラなのか?
まず知ってほしいのは、すべての厳しい言動がパワハラになるわけではない、ということです。子どもの安全に関わる場面で強く注意されることはあります。それは指導です。
では、何がパワハラなのか。一般に職場のパワーハラスメントは、次の3つの要素をすべて満たすものとされています。
- 職場での優位な立場(園長と部下という関係)を背景にしている
- 業務上必要な範囲を超えている
- 働く人の就業環境が害されている(精神的・身体的に苦痛を受けている)
園長は園のなかで最も強い立場にあります。だからこそ、その言動が「業務上必要な範囲」を超えていないかどうかが、線引きの中心になります。
2020年に施行された法律(労働施策総合推進法、通称パワハラ防止法)によって、事業主にはパワハラを防止する措置を取る義務があります。相談窓口を設けることや、相談した人が不利益な扱いを受けないようにすることも、その義務に含まれます。つまり、園長個人の問題であると同時に、園という組織が向き合うべき問題でもあるのです。
その感覚は、多くの人が持つものです。ミスを指摘されること自体は、おかしなことではありません。見るべきなのは、指摘の「中身」と「やり方」です。ミスの内容ではなく、あなたの人格や存在そのものを否定する言葉が混じっていないか。そこが分かれ目になります。
指導とパワハラを分ける具体例
言葉だけで説明すると分かりにくいので、現場でよくある場面を、指導とパワハラに分けて並べてみます。
| 指導の範囲 | パワハラに当たる可能性が高い |
|---|---|
| 「この場面は子どもが危ないので、次は先に声をかけてね」 | 「だからあなたはダメなんだ」と人格を否定する |
| 必要な業務について、その場で具体的に伝える | ほかの職員の前で、長時間にわたって叱責し続ける |
| ミスの再発防止について一緒に考える | 一人だけ仕事を与えない、または明らかに過大な仕事を押しつける |
| 意見が違っても、業務の話として議論する | あいさつを無視する、存在しないかのように扱う |
右側に並ぶ言動は、業務の改善とは関係がありません。相手を萎縮させたり、孤立させたりすることが目的になっています。これがパワハラの特徴です。
嫌味やきつい言い方は、パワハラになるのか
判断に迷いやすいのが、嫌味や、とげのある言い方です。「言っていることは正論だけれど、言い方がきつい」という場面ですね。
一回きりの少しきつい言葉だけで、ただちにパワハラと断定するのは難しい面があります。ただし、嫌味や見下した言い方が繰り返され、それによって職場にいることが苦痛になっているなら、それは就業環境が害されている状態です。線引きで大切なのは、一度の言葉の強さよりも、それが「続いているかどうか」と「あなたが苦痛を受けているかどうか」です。
グレーゾーンに見える言動でも、記録を残しておく価値はあります。なぜなら、一つひとつは小さく見えても、並べたときに初めて「繰り返されている」という事実が形になるからです。次の章で、その記録の話をします。
私が園長のパワハラに対して実際にやったこと
ここからは、私自身の江戸川区内の保育園であった実体験です。高圧的な園長のもとで働いていたとき、私が実際に取った行動を、順番にお伝えします。これは「こうすれば必ず解決する」という話ではありません。あくまで私のケースで取った手順として読んでください。
1. 何かあるたびに、ノートに記録した
私が最初にやったのは、記録を残すことでした。園長から何か言われたり、理不尽な扱いを受けたりするたびに、その日のうちにノートへ書き留めました。書いた項目は次の3つです。
- 日付と時刻
- どこで、誰がいる場で起きたか
- 言われたことの詳細(できるだけそのままの言葉で)
記憶はあいまいになります。「たしかひどいことを言われた」では、あとで何の役にも立ちません。日付・時刻・具体的な言葉がそろって、初めて記録になります。手書きのノートでも、スマホのメモでも構いません。大切なのは、その日のうちに、こまめに残し続けることです。
2. 可能であれば、スマホで録音した
記録と並行して、私はスマホでの録音もしていました。ここは誤解されやすい部分なので、丁寧に書きます。
自分自身が当事者として参加している会話を記録すること自体は、違法ではないとされています。園長から面談で何かを言われる、その場に自分がいる。そうした会話を録音するのは、自分の身を守るための記録です。録音したものは、相談の場で事実を裏づける材料として扱われることが多いです。
一方で、自分が参加していない会話をこっそり録音すること(いわゆる盗聴)は、これとは別の話になります。あくまで「自分が当事者である会話の記録」にとどめてください。
後ろめたく感じる必要はありません。録音は、相手を陥れるためのものではなく、「言った・言わない」で自分が不利にならないようにするための、防御の記録です。私はそう考えて、淡々と残していました。
3. 労働基準を扱う団体へ報告した
記録がある程度たまった段階で、私はたまたま通っていたまつげパーマの担当者の方の紹介で外部の窓口に相談しました。相談したのは、労働に関する公的な窓口や団体です。具体的には、労働基準監督署や、各都道府県の労働局に置かれている総合労働相談コーナー、そして個人でも加入できる労働組合(ユニオン)などがあります。
外部に相談する意味は、二つあります。一つは、自分の状況が客観的に見てどうなのかを、専門の立場から整理してもらえること。もう一つは、相談したという事実そのものが、記録として外部に残ることです。園のなかだけで抱えていると、何も起きていないことにされてしまいます。外に出すことで、初めて「これは記録されている問題だ」という状態になります。
4. 自治体と地元議員にも、正式に伝えた
認可保育園は、市区町村の指導監督のもとにあります。園で起きていることは、その自治体にとっても無関係ではありません。そこで私は、区役所の保育を担当する課にも相談し、状況を正式に伝えました。あわせて、地元の議員(これもまつげパーマの方が同じ町内会で知り合いだった)にも相談しました。住民が議員に困りごとを相談するのは、当然の権利です。
このとき私が意識していたのは、攻撃ではなく「手続き」として進める、ということでした。複数の正式な窓口に、事実を淡々と記録として残していく。そうすると、園も行政も「知らなかった」「対応していなかった」とは言えない状況になります。感情的に責め立てるのではなく、記録を積み重ねていく。その積み重ねが、状況を動かしていきました。
5. 結果として、その園長は他の園へ異動になった
私のケースでは、最終的にその園長はほかの区の園へ異動になりました。
ただ、これはあくまで私の一つの事例です。同じ手順を踏めば、誰でも同じ結果になる、というものではありません。園の状況も、自治体の対応も、ケースによって変わります。それでも私が伝えたいのは、結果そのものよりも「一人で抱え込まず、記録を残し、外部に正式に伝える」という進め方には意味がある、ということです。声を上げないかぎり、状況は静かに続いてしまいます。
園内・園外の相談窓口
「どこに相談すればいいのか分からない」という声をよく聞きます。窓口を整理しておきます。一つに絞る必要はありません。複数に相談して構いませんし、そのほうが記録も残ります。
| 窓口 | こんなときに |
|---|---|
| 園内の相談窓口・運営法人の本部 | パワハラ防止法により設置義務がある。まず園や法人の体制を確認したいとき |
| 労働基準監督署 | 長時間労働や賃金未払いなど、労働基準に関わる問題が絡んでいるとき |
| 都道府県労働局の総合労働相談コーナー | パワハラを含む職場のトラブル全般を、無料で相談したいとき |
| 労働組合(個人でも加入できるユニオン) | 一人で園と向き合うのが不安で、味方になってくれる存在がほしいとき |
| 自治体(区役所・市役所)の保育担当課 | 認可保育園での出来事を、指導監督する立場の行政に伝えたいとき |
| 弁護士・法テラス | 法的な対応を具体的に検討したいとき。法テラスは無料相談の窓口がある |
どこに相談するか迷ったら、まずは都道府県労働局の総合労働相談コーナーが入口として相談しやすいです。無料で、職場のトラブル全般を扱っています。そこで状況を話すうちに、次にどの窓口へ進めばいいかが見えてきます。
相談に行くときは、これまで残してきた記録を持っていってください。日付と具体的な内容がそろった記録があるだけで、相談はぐっと進めやすくなります。
それでも改善が見込めないときの選択肢
記録を残し、外部に相談しても、すぐに状況が変わるとはかぎりません。組織が動くには時間がかかります。そのあいだ、あなたの心と体がもたないこともあります。
そうなったとき、無理に同じ場所で戦い続ける必要はありません。距離を置くこと、つまり職場を移ることも、正当な選択です。逃げではありません。自分を守るための判断です。
もし職場を移ることを考えるなら、転職先を探すときに「園の雰囲気」や「人間関係」の情報をどれだけ得られるかが、次こそ同じ思いをしないための鍵になります。求人票だけでは、園長がどんな人かは分かりません。
そこで役に立つのが、職場の内部情報に詳しい転職エージェントです。レバウェル保育士は、担当アドバイザーが自分で求人を開拓しているため、職場の雰囲気や人間関係まで踏み込んだ情報を持っています。相談は無料で、LINEでもやり取りできます。「次は、人を見て園を選びたい」という方の入口として向いています。
まとめ
- 業務上必要な範囲を超え、人格を否定する言動が続くなら、園長の言動はパワハラに当たる可能性がある
- パワハラ防止法により、園には防止措置を取る義務がある。園長個人だけでなく組織の問題
- まず記録を残す。日付・時刻・場所・言われた内容を、その日のうちに書き留める
- 自分が当事者である会話の録音は、違法ではないとされる。防御の記録として残してよい
- 労働局の総合労働相談コーナーなど、外部の窓口に相談する。相談した事実が記録になる
- 改善が見込めず心身がもたないなら、職場を移ることも正当な選択
声を上げることは、こわいことです。私もそうでした。それでも、一人で黙って耐えているあいだは、何も記録されず、何も動きません。記録を残し、外部に正式に伝える。その手順を踏むことで、状況は少しずつ動き出します。あなたは、声を上げていいのです。
園長のパワハラに関するFAQ
園長の厳しい指導とパワハラの違いは?
業務上必要な範囲を超え、人格の否定や理不尽な扱いが続くかどうかが分かれ目です。
子どもの安全に関わる場面で具体的に注意することは指導です。一方、人格を否定する、ほかの職員の前で長時間叱責する、仕事を与えないといった言動が繰り返され、就業環境が害されているなら、パワハラに当たる可能性があります。一度の言葉の強さより、続いているかと苦痛を受けているかで見ます。
嫌味やきつい言い方はパワハラになる?
一回きりだけで断定は難しいものの、繰り返され苦痛になっているならパワハラに当たる可能性があります。
「正論だけれど言い方がきつい」という言動は判断に迷いやすい部分です。一度の少しきつい言葉だけでただちにパワハラと断定するのは難しい面がありますが、嫌味や見下した言い方が繰り返され、職場にいることが苦痛になっているなら、就業環境が害されている状態です。グレーに見えても記録を残しておく価値があります。
園長との会話をスマホで録音してもいい?
自分が当事者として参加している会話を記録すること自体は、違法ではないとされています。
面談など、自分がその場にいる会話の録音は、自分の身を守るための記録です。相談の場で事実を裏づける材料として扱われることが多くあります。ただし、自分が参加していない会話をこっそり録音すること(盗聴)は別の話です。あくまで自分が当事者である会話の記録にとどめてください。
園長のパワハラはどこに相談すればいい?
都道府県労働局の総合労働相談コーナーが、無料で相談しやすい入口です。
相談先は一つに絞る必要はありません。労働基準監督署、労働局の総合労働相談コーナー、個人でも加入できる労働組合(ユニオン)、認可保育園なら自治体の保育担当課、法的対応を考えるなら弁護士や法テラスがあります。どこに行くか迷ったら、無料で職場のトラブル全般を扱う総合労働相談コーナーから始めると進めやすいです。
保育園の園長にもパワハラ防止の義務はある?
あります。2020年施行のパワハラ防止法により、事業主には防止措置を取る義務があります。
労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)によって、事業主には相談窓口の設置などパワハラを防止する措置を取る義務があります。相談した人が不利益な扱いを受けないようにすることも含まれます。パワハラは園長個人の問題であると同時に、園という組織が向き合うべき問題です。