「先生、なんでそんな話し方するの?」

4歳児クラスの女の子に、そう言われて固まった日があります。
保育士になって20年以上の私が、です。

ディズニー好きが高じて35歳過ぎに関西から上京して、今は都内の認可園で働いてる私ですが、あの日のことは今でも忘れません。
その子に言われた「そんな話し方」っていうのは、私が無意識に使ってた「先生らしい声」のことでした。

ちょっと高めで、優しそうで、子ども向けに"整えた"声。
子どもは、ちゃんと見てるんですよ。私が私じゃなくて、「先生という役」をやってることを。

今日は、「子どもとどう向き合うか」っていう、テクニック以前の話をします。
新人さん、中堅さん、それから「ベテラン先生みたいにうまくできない」って悩んでる全ての保育士に読んでほしい内容です。


「正解の関わり方」を探してた頃

まず、私の後輩・保育士Aさんの話から始めさせてください。
保育士Aさんは埼玉の認可園で2年目、新卒で現場に入った子です。

👩
保育士Aさん
「先輩、私本当に1年目、毎日"正解の関わり方"を探してたんですよ。Instagramで保育士アカウント100個くらいフォローして、『子どもへの声かけ一覧』みたいな投稿を全部スクショして、朝出勤前に見返してました。」


「それで、うまくいった?」

👩
保育士Aさん
「全然です。投稿通りにしゃべっても、目の前の子には響かないことが多くて。『あれ?これで合ってるはずなのに』ってなって……帰り道、すごくしんどかったです。」

これね、保育士Aさんだけの話じゃないんですよ。
私も新人の頃、先輩保育士の言葉をそっくりそのまま真似してた時期がありました。口癖も、身振りも、抱っこの仕方まで。

でも、うまくいかない。
子どもが懐いてくれない。むしろ距離を置かれる。

保育士って、どういうわけか「いい先生」の模範解答があると思い込んでる人が多いんですよ。
研修で学んだ通りにやる、先輩のやり方を真似る、指針の文言を暗記する。
それができたら、いい保育ができると信じてる。

でも、現場で一番大事なのはそこではなくて。

マニュアル通りが正解ではないんです。目の前の子どもが誰かを見ることが先。

これに気づくまで、私も数年かかりました。


向き合い方の7つの基礎

ここから、私が13年やってきて「これだけは」と思う7つの基礎をお伝えします。
テクニックではなくて、姿勢の話です。

基礎1:名前で呼ぶ

「この子」「◯◯ちゃん」の"ちゃん"だけで呼ぶ、「あっちの子」。
こういう呼び方、気づいたらしてませんか?

名前で呼ぶって、すごく当たり前に見えるけど、実は意識していないと崩れます。
特に忙しい朝の受け入れ時間とか、クラスが荒れてる時。

👩‍🏫
ベテラン先生
「名前はね、その子の存在ごと呼ぶ道具なんです。『さあちゃん、おはよう』って言うのと、『おはよう』だけで言うのとでは、届き方が全然違うんですよ。」

フルネームを覚えるのは当然として、「その子が呼ばれたい呼び方」も把握しておくと、子どもの顔がパッと明るくなる瞬間に出会えます。

基礎2:目線を合わせる

しゃがむ、かがむ、座る。
身長差があるまま話すと、子どもにとっては「大人が上から降ってくる圧」になってしまう。

私はこれを意識し始めてから、子どもが話してくれる量が倍以上に増えました。
特に何かトラブルがあった時、立ったまま「どうしたの?」と聞くのと、しゃがんで目を合わせて「どうしたの?」と聞くのとでは、返ってくる言葉が全然違います。

膝をつくのがつらい日もあります。
でも、目線を合わせるって、一番コストが低くて効果が大きい基礎だと思います。

基礎3:「ダメ」より「こうしてみよう」

否定語は、子どもの耳に届きにくい。
「走らない」って言っても、子どもは「走る」という動作をイメージしてしまう。

そうではなくて、「歩こうね」「歩いてみようか」に変える。
これは脳科学的にも言われている話だけど、現場で使ってみると確かに効きます。

基礎4:否定せずに共感から入る

子どもが泣いてる時、「泣かないで」って言っても泣き止みません。
むしろ「泣いてる自分は悪い」という感覚を植え付けてしまう。

そうではなくて、「悲しかったんだね」「びっくりしたね」から入る。
感情を否定せずに、まず受け止める。

これができるかどうかで、その子が「この先生には話していい」と思ってくれるかが決まります。

基礎5:子ども同士のトラブルは仲裁者じゃなく伴走者

保育士って、つい「ジャッジしたくなる」んですよ。
「どっちが悪いか」を見極めて、謝らせて、解決する。
それが仕事だと思ってしまう。

でも、子ども同士のトラブルは、学びの宝庫です。
大人が裁判官になって決着をつけるより、「何があったか、一緒に整理しよう」って伴走する方が、その子たちが次回自分で解決できるようになる。

🧑
保育士Bさん
「僕、最初これが本当に苦手でした。『お友達に謝って』ってすぐ言ってしまう。でも、先輩に『Bさん、まず何があったか聞いてみて?』って言われて変わったんです。」

基礎6:子どもの「今」を見る

昨日噛みつきをした子、先週癇癪を起こした子、去年までオムツが外れていなかった子。
保育士って、どうしても過去の記憶が重なって見てしまう。

でも、子どもは毎日変わります。
昨日の◯◯くんは、今日の◯◯くんではない。

「またこの子か」と思った瞬間、その子に貼られたレッテルが外れなくなります。
毎朝、真っ白な目で迎える。つらい日もあるけど、これができる保育士は子どもから信頼されます。

基礎7:自分が疲れてるときは距離を置く

これ、新人さんに一番伝えたい。
疲れてる時、余裕がない時に無理に向き合おうとすると、絶対に空回りします。

声が尖る、対応が雑になる、その結果さらに落ち込む。負のループです。

つらい日は、「今日は最低限のことだけやる」でいいんです。
ベテランほど、この"撤退"が上手い。全力で向き合わない日を作ることも、プロの仕事だと私は思ってます。


言葉選びのBefore/After

具体的に、日々使う言葉を書き出してみます。

「早くして」→「あと2回寝たら終わろうね」
時間の概念がまだない子には、回数や動作で伝える方が届きます。

「ダメ」→「こっちにしてみようか」
代替案を出すと、子どもは選べる。禁止より提案。

「泣かないで」→「悲しかったね」
感情を受け止める言葉を先に置く。

「お友達に謝って」→「何があったか教えて」
プロセスを飛ばさない。感情の整理が先。

「何回言ったら分かるの」→「もう一回、一緒にやってみよう」
責めから、並走へ。

これ、毎日全部できたら聖人です。私もできない日が週3回はあります。
でも、「あ、今Beforeで言ってしまったな」って気づけるだけでも、翌日が変わります。


年齢別・向き合い方の違い

ざっくりですが、発達段階で意識することが違います。

0・1歳児
言葉の発達途中なので、大人の言葉より「表情」「声のトーン」「肌の温度」が届きます。
「今日も来てくれてうれしい」っていう気持ちを、言葉ではなくて抱っこや笑顔で伝える時期。

2・3歳児
自我の芽生え。イヤイヤ期が本格化します。
「自分でやりたい」という気持ちを尊重しつつ、選択肢を用意してあげる。
「赤いシャツと青いシャツ、どっちがいい?」みたいに、選ぶ余地を作ると関わりが楽になります。

4・5歳児
言葉でのやりとりが成立する。が、論理で詰めないこと。
「なんで?」を大人から連発すると、子どもは黙ります。
理由を聞きたい時は、「どうしたの?」「そっか、そう思ったんだね」と、柔らかく掘る。

全年齢共通で、「その子の今日の機嫌」を一番上に置いてください。
昨日と同じ関わりが、今日うまくいくとは限りません。


男性保育士の視点

保育士Bさんは千葉の認可園で働いてる男性保育士で、職住近接を選んで引っ越した子です。
彼が新人の頃、本当に悩んでたのは「女性保育士との距離感の違い」でした。

🧑
保育士Bさん
「女の先生が『ぎゅー』って抱っこしてあげてる場面で、僕が同じことしたら違和感があるんじゃないかって。体もでかいし、声も低いし。最初はずっと引いて見てました。」


「でも今は違うんだよね?」

🧑
保育士Bさん
「はい。ある日、4歳の男の子が『Bさん先生のほうが抱っこ強いから安心する』って言ってくれて。あ、これが僕にしか出せない安心感なんだって気づいたんです。」

男性保育士だから、女性保育士の真似をする必要はないんです。
父性的な安心感って、子どもにとって必要なものです。
大きな手、低い声、どっしりした抱っこ。それが届く子が絶対にいる。

女性保育士と同じ関わりを目指すのではなくて、自分が自然にできる関わりを磨く方がいい。
これは男女逆も同じで、女性保育士も「女らしい先生」を演じる必要はないんですよ。


子どもとの相性は「ある」

これ、現場で働いてたら絶対に分かる話なんですけど、意外と言語化されてません。

子どもとの相性って、あるんです。

どれだけ保育観を磨いても、どれだけ寄り添おうとしても、「なんかこの子と合わないな」って感じることがある。
逆に、初対面でなぜか懐いてくれる子もいる。

で、ここで多くの保育士が罠にハマります。
「合わないと感じる自分はプロ失格だ」と思って、無理に合わせようとして、結果もっと関係がぎくしゃくする。

👩‍🏫
ベテラン先生
「合わないことを認める勇気のほうが、よっぽどプロですよ。自分が苦手な子を、同僚の先生にそっと任せる。それも保育です。」

認めた上でできることは、たくさんあります。

  • 無理に距離を詰めない
  • でも、最低限の関わり(挨拶・名前呼び・目線合わせ)は丁寧に続ける
  • 同僚と「◯◯くん、私は距離感難しい。助けてもらえる?」と共有する
  • その子が別の先生と楽しそうにしてる姿を、喜んで見守る

チームで一人の子を育てる、という発想に切り替えたとき、一気に楽になります。


「正解探し」から抜けるサイン

では、「マニュアル探し」のフェーズを卒業できた保育士には、どんなサインが出るのか。
私が見てきた中で、共通してたのは次の3つです。

👩‍🏫
ベテラン先生
「一個ずつ解説しますね。」

1. 子どもの名前で、すぐ顔が浮かぶ
単に名簿を覚えたという話ではなくて、その子の「今の状態」までセットで浮かぶ。
「さあちゃん、今週お母さんが出張で、ちょっと甘えん坊になってるな」って、瞬時に思い出せる。

2. マニュアルを見なくても判断できる
「こういう時はどうすれば」って一瞬迷うけど、自分の中の軸で判断できる。
間違うこともあるけど、間違ったあとに自分で修正できる。

3. 保護者の話を聞く余裕がある
送迎時、保護者の何気ない一言の裏にある気持ちを拾える。
これは、自分が目の前の子どもに振り回されなくなった時に、はじめて生まれる余裕です。

この3つが揃ってきたら、もう「正解探し」のフェーズは卒業です。


保育観は、園の文化で育つ

ここが今日一番伝えたい話かもしれません。

保育士の保育観って、本を読んで育つものでも、研修で身につくものでもないんですよ。
毎日働いてる園の文化で、育つんです。

園には大きく分けて2種類あります。

1. 「先生ごとに違っていい」園
同じ2歳児クラスでも、A先生は歌が多め、B先生は絵本が多め。
園長も「それぞれの良さがあるね」と認めてる。
こういう園にいると、保育士は自分の関わり方を探し続けられます。

2. 「統一された保育」を強要する園
「うちはこうやるから」と、マニュアル化された関わり方を全員に求める。
新人は模倣しかできず、中堅は個性を殺され、ベテランは疲弊する。
これ、意外と多いです。

私は、後者の園にいる保育士に強く言いたい。
保育観は、環境で曲がります。

「うまくできない自分が悪い」のではなくて、そもそもその園が、あなたの個性を殺しにかかってる可能性があります。
新人のうちは気づきにくいけど、3年目くらいで「何かおかしい」と感じたら、一度園を外から見てみてほしい。

面談の段階で、園の方針を丁寧に説明してくれる求人紹介サービスを使うのも一つの手です。
私がよく話を聞くほいく畑

は、園の保育方針まで踏み込んで紹介してくれるので、「保育観を強要されたくない」「自分の個性を活かせる園に行きたい」という人にはフィットしやすいと思います。

保育士の個性を活かす園か、統一された保育を強要する園か。
これを見分けるだけで、保育人生がだいぶ変わります。


まとめ:子どもが一人ひとり違うから、保育士も違っていい

長くなったので、最後に整理します。

  • 「正解の関わり方」はない。目の前の子を見ることが先
  • 7つの基礎:名前・目線・提案・共感・伴走・今を見る・疲れたら引く
  • 言葉のBefore/Afterは、気づくだけで十分
  • 年齢で関わり方は変わる。でも「今日の機嫌」が一番大事
  • 男性保育士は女性の真似をしなくていい。自分の安心感を磨く
  • 合わない子はいる。認めた上でチームで育てる
  • 保育観は園の文化で育つ。合わない園からは移ってもいい

子どもは一人ひとり違います。
だから、保育士も一人ひとり違っていいんです。

「ベテラン先生みたいにできない」って悩んでる新人さんへ。
ベテラン先生も、若い頃は同じように悩んでました。私もです。
あなたがあなたらしく子どもと向き合う道を、焦らず探してください。

子どもは、ちゃんと見てますから。

子どもとの向き合い方についてよくある質問

子どもと向き合う時に一番大事な基礎は?

「正解探し」をやめて、目の前にいるその子が誰なのかを見ることが最初の基礎になります。

Instagram投稿や先輩の真似をしても響かないのは、目の前の子を見ていないから。マニュアル通りにやることより、その子の「今」を見る姿勢を持つことが、13年の現場経験から導いた最重要の基礎です。

「ダメ」と言わない方がいいのはなぜ?

否定語は子どもに届きにくく、逆にしてほしくない行動のイメージを強化してしまうからです。

「走らない」と言われると子どもは「走る」動作をイメージしてしまいます。「歩こうね」「歩いてみようか」と肯定形で伝える方が脳科学的にも届きやすく、現場でも効果が高いと感じます。

子ども同士のトラブルはどう仲裁すべき?

ジャッジせず「何があったか一緒に整理しよう」と伴走者になるのが13年現場で得た正解です。

「どっちが悪い」を裁いて謝らせるより、子ども同士のトラブルは学びの宝庫として伴走する方が、その子たちが次回自分で解決できるようになります。大人が裁判官になる必要はありません。

目線を合わせるって本当に効果ある?

しゃがんで目を合わせて話しかけると、子どもからの言葉量が体感で倍以上に増えます。

身長差のまま話すと子どもには「大人が上から降ってくる圧」になります。膝をつくのは負担でも、コストが低くて効果が大きい基礎で、特にトラブル時は座って目を合わせるだけで返ってくる言葉が変わります。

疲れている日はどう対応すべき?

余裕がない時は「今日は最低限のことだけやる」で一時撤退するのが、プロの保育士の仕事です。

疲れた時に無理に向き合うと声が尖り対応が雑になり、負のループに入ります。ベテランほど「全力で向き合わない日」を作るのが上手で、これは自分と子どもを守るための撤退戦略です。


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