結論:公立保育士を辞めて「よかった」と感じるか「後悔する」かの差は、安定への期待値と異動許容度です。3つの境界線で事前に見分けられます。(2026年5月時点)

役所の辞令通知を、もう一度読み返した夜のあなたへ

春先、自宅のテーブルの上に、もう一度開いた辞令通知が置かれている。「公立だから安心」と人から言われ続けてきたのに、辞めたい自分がいる。自分の中で何かがずれていることだけは、自分が一番よく分かっている夜です。

以前、同じ気持ちで悩んでいた同僚がいました。給料も賞与も悪くない、退職金も将来も計算できる。それでも、月曜の朝に身体が動かなくなる。家族からは「もったいない」と言われ、友人からは「公務員でしんどいなんて言ったら他の人に怒られるよ」と言われ、行き場のなかった話を、いまでも覚えています。

この記事は「公立を辞めるべき」という煽りでも、「公立にしがみつくべき」という安定礼賛でもありません。辞めて「よかった」と感じる人と、辞めて「後悔する」人の差を、できるだけ感情ではなく構造で整理します。読んだあと、自分がどちらに近いかが少しでも見えるように書きました。


「公立辞めてよかった」と感じる3つの瞬間

実際に公立から離れた人から聞いた話を整理すると、「よかった」と感じる瞬間はおおむね3つに集約されます。

1. 異動希望が通らず、同じ園で消耗し続けた人ほど解放感が大きい

公立保育士は、数年ごとに自治体内で異動する仕組みが基本です。ところが、希望どおりに動けるかどうかは年度ごとに変わります。人事の都合や園長の判断、自治体の方針で、6年・7年と同じ園に残るケースもあります。

同じ園に長く居続けると、人間関係も、子どもの保護者層も、行事の回し方も、ほとんど自分の意思では変えられません。新しい風が入らない場所で消耗していくタイプの方は、辞めて環境を一度リセットしたあと、別の場所で息を吹き返したという話をよく耳にします。

2. 制度疲れ(書類過多・形骸化した会議)から距離を置けたとき

公立は「公的にきちんと回す」ことが組織の前提なので、書類・記録・報告のフォーマットがとても多いです。1枚1枚に意味があった時期もありますが、年月とともに「埋めること自体が目的」になっているものも増えていきます。

会議も同じです。決定事項のない定例、結論が出ない議題、所感の発表会。「子どもの前にいる時間より、書類と会議の時間のほうが長い」と感じてしまったとき、自分の保育観と職場が遠くなっていきます。私立や小規模園に移って、書類量が体感で半分以下になったという話は、辞めてよかった理由として一番よく出てきます。

3. 給与は安定でも「やりがい」が見えなくなったとき

公立は給与・賞与・退職金の安定が大きな魅力です。それは事実です。ただ、人によっては「お金は確かに入る、でも自分が何のためにここにいるのか分からない」という状態に入ることがあります。とくに、自分の保育観と園の方針が合わない期間が続くと、安定そのものが重荷になる瞬間があります。

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保育士Aさん
「『安定してるね』って言われるたびに、自分の何が安定してないかが少しずつ分かってきて。給料は確かに安定してるんですけど、心のほうがずっとぐらぐらしていました」

逆に「辞めなければよかった」と感じる人の傾向

一方で、辞めてから「戻りたい」と感じる人もいます。煽る情報源は触れたがりませんが、こちらも事実として整理しておきます。

1. 賞与・退職金の差を、辞めたあとで実感する

在職中は「給与明細の数字」しか見えませんが、辞めて私立や民間に移ってから、年単位・10年単位で差を体感する人がいます。賞与の支給月数、退職金の計算式、共済年金の上乗せ部分、これらは公立側のほうが手厚い傾向があります。具体的な金額は自治体や法人で違うので一律ではありませんが、長く勤めるほど差は積み上がります。

金額の比較が気になる方は、公立と私立の保育士ボーナスの違いを一度見ておくと、自分が手放そうとしているものの大きさが少し具体的になります。

2. 民間園でも、人間関係の問題は形を変えて出る

「公立の人間関係がきつかったから、民間に行けば楽になる」と思って動いた方が、移った先で別の人間関係問題に出会うことは珍しくありません。組織が違っても、人と人が長時間同じ空間で働く限り、相性や派閥はどこにでもあります。

人間関係そのものが理由で動くなら、辞める前にいまの園で人間関係の整理の仕方を一度試したほうが、再発防止になります。それでも変わらないと判断できたときに動くほうが、後悔は小さいです。

3. 「自由になりたかった」だけが理由だと、長続きしにくい

「縛られたくない」「もっと自由に働きたい」だけを動機にした転職は、最初の数ヶ月は解放感がありますが、半年経つと別の不安(将来・年金・住宅ローン審査)が来ます。動機が「逃げ」だけだった場合、次の場所でも同じ感覚が再現される傾向があります。

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保育士Bさん
「私は1年で公立に戻りたくなったタイプです。自由はあったんですけど、毎月の安心感がまるで違っていて。同じ仕事をしているのに、心の余裕の出方が逆になりました」

安定を手放す前に、必ず確認したい3つ

辞める判断そのものを止める意図はありません。ただ、安定は一度手放すと拾い直すのが難しい性質のものです。動く前に、3つだけ確認してください。

1. 退職金・共済年金の試算

いまの自治体の規定で、退職時にいくら受け取れるのか、共済年金の上乗せがどう積み上がっているのか、紙の数字で一度確認してください。人事課や共済組合に問い合わせれば、現時点の試算は出してもらえます。「なんとなく安定」ではなく、具体的な金額に落としてから判断するのが、後悔の少ない動き方です。

2. 異動希望の出し方を、改めて見直す

異動希望を「形だけ」出してきた人ほど、いま一度書き方を見直す価値があります。希望理由欄に、現状の具体・移動先で実現したいこと・健康面の事情を、簡潔に書き分けて出します。書類が増えるほどよいわけではありませんが、人事側が「動かす理由」を見つけられる材料を渡すのは、本人の権利です。

異動だけで解決するなら、辞めずに済みます。辞めるのは、異動を試したあとでも遅くありません。

3. 私立・小規模・企業主導型・院内のどれと比較しているか

「公立を辞める」だけでは、まだ動き先は決まっていません。私立認可・小規模認可・企業主導型・院内保育・認可外で、給与帯も働き方も大きく違います。漠然と「民間」と一括りにしたまま動くと、移ったあとで「思っていたのと違う」が起きやすいです。

動き方の全体像は、保育士の転職ロードマップで整理しています。先に地図を持ってから、自分がどこに向かいたいのかを決めてください。


「辞める」以外の選択肢を持っておく

判断を二択(続ける/辞める)にしてしまうと、追い詰められたときに極端な動きになります。間にいくつか段階を置いておくと、心が少し楽になります。

休職という選択

心身の不調が出ている場合は、辞める前に病気休暇・休職制度の利用を検討してください。公立保育士は、地方公務員として比較的手厚い休暇制度が整っています。診断書があれば取得できる範囲も広いです。完全に走り切ってから退職するより、一度立ち止まって体勢を整え直すほうが、結果として続けられる場合もあります。

異動再申請という選択

1度目の異動希望が通らなかった場合でも、次年度に出し直すことは可能です。前年度の希望が通らなかった経緯、現状の負荷、健康診断結果などを添えて、もう一段強く出すと判断材料が増えます。

期間限定の挑戦という選択

自治体によっては、休職制度を使って一度別の世界(留学・国内研修・自治体間交流)に出る仕組みがあるところもあります。完全退職ではなく、戻る場所を残したまま外を見る選択肢は、知っておくだけで気持ちが変わります。


公立保育士を辞めて民間に転職して年収は上がりますか?

結論から言うと、一概にYesではありません。経験年数と移動先の施設形態次第で、上がることもあれば下がることもあります。

傾向としては、社会福祉法人系の老舗園や法人本部のある大手認可園は、勤続が積み上がれば公立に近い水準まで上がるケースがあります。一方、小規模認可・新興の保育株式会社・企業主導型・院内保育は、基本給は近いことがあっても、賞与の支給月数や退職金規定で年単位の差が出やすい傾向です。

金額の目安は法人と地域で大きく揺れるので、求人票の「年収例」を一つだけ見て判断するのは危険です。可能であれば、複数の求人票を並べて、基本給・賞与・各種手当・退職金規定を縦に比較してください。公立側の正確な金額は、いまの給与明細と退職金規定を見直せば自分で出せます。

人間関係を理由に動く場合は、年収より先に「移動先の人間関係の風通し」をどう確認するかが大事です。人間関係の整理の仕方と合わせて、移動先の見極め方も一度言語化しておくと、移ったあとで「またか」とならずに済みます。

公立保育士を志した時期の自分を思い出したい方は、公立保育士試験の受験経路も読み返してみてください。「あのときの自分が、いまの自分に何を選ばせたいか」を考える材料になります。


まとめ

公立保育士を辞めるかどうかの判断で、覚えておいてほしいことは4つです。

  1. 「辞めてよかった」と感じる人は、異動が通らず消耗していた人・制度疲れの人・やりがいが見えなくなった人に多い
  2. 「辞めなければよかった」と感じる人は、賞与退職金の差を後で実感した人・人間関係で動いた人・自由になりたかっただけの人に多い
  3. 動く前に、退職金試算・異動希望の出し直し・移動先の施設形態の3点を確認する
  4. 判断を二択にせず、休職・異動再申請・期間限定の挑戦という選択肢も並べておく

公立であれ私立であれ、続けるか辞めるかは、いまの自分の体力と将来の見通しで決めるしかありません。「正解の選択」を探すと迷子になります。自分にとって取り返しのつく選択を、自分のペースで選んでください。安定は守るに値する財産ですが、自分を擦り減らしてまで守るものではありません。両方を冷静に並べたうえで、納得して選んだほうが、後で振り返ったときに「自分で決めた」と思える時間になります。

「公立保育士を辞めてよかった」によくある質問

公立保育士を辞めて民間に移ると年収は上がりますか?

一概にYesではありません。移動先の施設形態と勤続によって、上がることも下がることもあります。

社会福祉法人系の老舗園や法人本部のある大手認可園は、勤続が積み上がれば公立に近い水準まで上がる傾向です。一方、小規模認可・企業主導型・院内保育は、賞与の支給月数や退職金規定で年単位の差が出やすい傾向があります。求人票の年収例は1つだけで判断せず、基本給・賞与・手当・退職金を縦に比較してください。

辞める前にやっておくべきことは何ですか?

退職金と共済年金の試算、異動希望の出し直し、移動先の施設形態の比較、この3つは動く前に確認してください。

退職金は人事課や共済組合で現時点の試算を出してもらえます。異動希望は書き方を見直すと前回より通る可能性があります。移動先は「民間」と一括りにせず、私立認可・小規模認可・企業主導型・院内保育のどれを想定しているかまで具体化してから判断するのが安全です。

「辞めるか続けるか」以外の選択肢はありますか?

休職、異動再申請、期間限定の挑戦という3つの中間選択肢があります。

心身の不調が出ている場合は、辞める前に病気休暇や休職制度を検討してください。公立保育士は地方公務員として休暇制度が比較的手厚いです。異動希望は次年度に出し直せます。自治体によっては休職制度で外を見る仕組みもあります。判断を二択にせず段階を置くと、極端な動きを避けられます。


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