結論:「言うことを聞かない」ように見える瞬間の半分は、関わりの土台(信頼・予測可能性・興味)が崩れた状態です。3つを整えれば、声を張らなくても伝わるようになります。(2026年5月時点)

以前受け持っていた3歳児クラスに、私の指示にだけ動かない子がいました。ある日その子に「先生の言うこと、なんで聞かなきゃいけないの」と言われて、頭が真っ白になったのを覚えています。

家に帰ってから自分の声を録音した記憶を再生してみました。朝から「片付けて」「並んで」「座って」「やめて」を、ほぼ同じトーンで連続して言っていました。子どもからすれば、私は「次に何を言われるか分からない指示の機械」になっていた。あの子は反抗していたのではなく、私の声に疲れていただけだった、と気づいたのはその夜です。

この記事は、その夜の私と、いま同じように「なんで言うこと聞いてくれないの」と給湯室で立ち止まっているあなたに向けて書きます。


「言うことを聞かない」ように見える3つの正体

「言うことを聞かない」という言葉は、現場でとてもざっくり使われます。でも、その瞬間に子どもの中で起きていることは、たいてい次の3つのどれかです。

  1. 信頼関係の不足:この先生は、自分が困ったときに守ってくれる人か、まだ分かっていない
  2. 予測可能性の不足:次に何が起きるか分からないから、いま手を止める理由が見つからない
  3. 興味の流れと指示のタイミングずれ:いま夢中になっているものから、いきなり別のことに切り替えろと言われた

3つのうちどれが崩れているかで、対処はまったく変わります。信頼が薄い相手にいくら丁寧に予告しても届かないし、信頼があっても夢中の最中に「やめなさい」と言えば、子どもの脳は一瞬フリーズします。

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保育士Aさん
「『お片付けして』って10回言っても動かなかった子が、片付けの歌を一緒に歌い始めたら3歳児がスッと動いたんです。指示じゃなくて、流れに乗せるのが正解だったんだなって」

「言うことを聞かせる」という発想で構えていると、3つの土台が見えなくなります。子どもの側に何が起きているかをまず見ること。そこからしか入口は作れません。


声を張る前にできる3つのこと

大きな声を出す前に、たった3つの動作で届き方が変わります。叱る量を増やすのではなく、届く土台を整えるための練習です。

1. 名前を呼んで、目線を合わせる

集団全体に「みんな〜」と言う前に、いちばん動いていない子の名前を1回呼びます。呼んだら必ずしゃがんで、目線を同じ高さにします。立ったまま上から声をかける限り、子どもの体感では「指示が降ってくる」だけで、自分に向けられた言葉として届きません。

名前を呼ぶ・しゃがむ・目を合わせる。この3秒が抜けているだけで、同じ言葉が10回必要になります。

2. 次に何が起きるかを予告する

「あと5分でお片付けです」「時計の長い針が6に来たら、おやつだよ」。次の見通しを1回挟むだけで、子どもは今やっていることに区切りをつける準備ができます。

大人でも、急に「いま止めて」と言われると体が反発します。子どもなら、なおさらです。予告は子どもへの礼儀のようなものです。

3. 「何のため」を1秒添える

「並んでください」より「みんなで一緒におやつ食べたいから、並んでね」のほうが、3歳児でも受け取りやすくなります。長い説明は要りません。1秒で添えられる「目的」を1つだけ足す。

命令の数を減らさず、命令の質を変える練習です。

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保育士Bさん
「叱る前の30秒を変えたら、私の声が枯れなくなりました。声を張る量じゃなくて、声を張る前に何をしてるかで届き方が全然違うんだなって、3年目で気づきました」

それでも届かないとき、確かめたい3つ

土台を整えても、響かないように見える瞬間はあります。そのときは、子どもの側の事情を確かめます。

1. 聴覚処理の癖

長い文を一度に聞いて理解するのが苦手な子は、一定の割合でいます。「片付けて、手を洗って、椅子に座って」を一息で言うと、3つのうち1つしか残らないことがあります。指示を1つずつ、短く区切る練習をしてみてください。

2. 指示の長さ

1回の指示が10秒を超えると、子どもの集中は途切れます。「〇〇して、それから△△して、終わったら□□してね」と言いたくなりますが、最初の指示が終わってから次を出す形に分解できないか、見直す価値があります。

3. 集団規模と発達段階のずれ

3歳児に20人一斉指示は、構造的に難しい場面があります。クラスを2グループに分ける、近くにいる子から順に伝える。集団規模そのものを変えると、急に届くようになることがあります。

聞こえているのに動けない理由は、性格やわがままではなく、処理の癖や発達の段階に紐づいていることがあります。発達特性を持つ子への保育士の関わり方では、その線引きをもう少し詳しく書いています。


「私の関わり方が悪いのかも」を切り離す

子どもが動かない朝が続くと、たいていの保育士は「私のせいだ」と自分を責め始めます。気持ちは分かります。でも、その方向に深く沈むと、関わりはさらに固くなります。

ベテランの先生でも、関係性ができていない初対面の子には、最初の数週間はうまく届きません。届くようになるのは関わりの量と時間が必要だからで、技術が足りないからではありません。

「私が悪いのかも」と感じ始めたら、自分を責める前に職場の空気を一度確かめてみてください。先輩からの視線、同僚の評価、保護者からの言葉。それらが重なって「私が悪い」を作り出していることがあります。保育士の人間関係に疲れたあなたへと、保育士1年目を生き延びるための手紙を、夜の自分へのお守りにしてみてください。


叱ってもまったく響かない子に、保育士はどう関わればいいですか

結論から書きます。叱る量を増やすのではなく、響く土台を整える方向に時間を使ってください。

叱ることで動く子は、たいてい「叱られる前から信頼関係ができていた子」です。信頼の土台がない相手にいくら強い声で叱っても、子どもの中には「怖い人」という記憶だけが残ります。怖さは一時的には機能しますが、半年後には効かなくなります。

新人のうちは、まず信頼の貯金を作る時期だと思って大丈夫です。新人保育士の最初の3ヶ月で身につけることに、その貯金の作り方を書きました。

関わりの土台が整うまで、半年から1年かかることもあります。その時間を「自分の指導力不足」ではなく「関係を作っている期間」と呼び替えるだけで、夜の自分の責め方が少し減ります。


まとめ

「言うことを聞いてくれない」と感じている保育士のあなたに、覚えておいてほしいことは4つです。

  1. 「言うことを聞かない」の正体は、信頼・予測可能性・興味の3つの土台の崩れ
  2. 声を張る前に「名前を呼ぶ・予告する・目的を添える」の3秒を入れる
  3. 届かないときは、聴覚処理の癖・指示の長さ・集団規模を確かめる
  4. 「私が悪いのかも」を切り離して、関係を作る時間として見直す

子どもの体や表情の小さなサインを読む練習は、保護者からの身体の気づき方とも地続きです。声を張る量より、声を張る前の30秒を変える。今日の午後の1場面から、試してみてください。

「子どもが言うことを聞かない」によくある質問

子どもが言うことを聞かないのは、私の指導力不足ですか?

指導力ではなく、関わりの土台(信頼・予測可能性・興味)のどれかが整っていない状態です。

ベテランでも、関係ができていない子には届かない時期が必ずあります。信頼関係は時間で積み上がるもので、技術だけで一気に短縮できるものではありません。「自分のせい」と責める前に、3つの土台のどこが薄いかを観察してみてください。

叱っても響かない子には、声を大きくするしかないですか?

声の大きさを増やすより、声を出す前の30秒を変えるほうが、結果として届きます。

名前を呼ぶ・しゃがんで目線を合わせる・次の予告を1回入れる。この3秒が抜けていると、同じ指示を10回繰り返すことになります。怒鳴って動かす関わりは短期的には機能しますが、半年で効かなくなり、子どもとの関係も固くなります。

クラス全体に届かないとき、何から見直せばいいですか?

集団規模と指示の長さの2つを、まず見直してみてください。

3歳児に20人一斉指示は構造的に難しい場面があります。グループ分け・近くにいる子から伝える・1回の指示を10秒以内に区切るだけで、届き方が大きく変わります。届かない原因が子どもの聴覚処理の癖にある場合もあり、その場合は発達特性への配慮も合わせて検討する価値があります。


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