結論:「発表会がひどい」と感じる正体は、行事そのものではなく、準備量と労務と評価の構造です。3つに切り分けると、辞める前に試せることと、辞めていい線引きが見えてきます。(2026年5月時点)

3週連続で22時退勤になった、あの発表会の話

以前の園で、衣装の最終チェックが終わるのが22時を回った夜があります。3週連続でそうなっていました。子どもが帰ったあとに小道具を作り、終わらない分を家に持ち帰り、休みの日も画用紙を切っている。当日の朝、舞台袖で子どもの肩を整えながら、私は一瞬「これは、誰のための行事だったか」がわからなくなりました。

本番自体は素敵に終わりました。子どもたちは堂々と歌い、保護者は拍手を送り、園長は満足そうでした。それでも私は、終演後にバックヤードで座り込んだまましばらく動けませんでした。達成感ではなく、疲労でもなく、もっと別の何かが体に残っていました。

「保育園の発表会がひどい」と検索する保育士は、たぶん同じ何かを抱えています。この記事は、その「何か」に輪郭を渡すために書きます。


「発表会がひどい」と感じる、3つの正体

はじめに整理しておきます。「ひどい」と感じる対象は、行事そのものではありません。次の3つが折り重なって、保育士を消耗させています。

正体1:準備量がここ10年で静かに増え続けている

私の感覚で書きますが、衣装、小道具、舞台装飾、通し稽古、動画配信、当日の役割分担表。発表会に紐づくタスクは、ここ10年で少しずつ増えてきました。「去年やったから今年もやる」が積み上がり、誰も「これ要りますか」と言い出せないまま、年に一度の儀式が肥大していきます。

衣装ひとつとっても、既製品で済むのにわざわざ手縫いの装飾を足す、髪型まで指定する、当日の写真用に追加の小物を準備する。一個一個は小さい判断でも、合計の労務として保育士の上に乗ります。

正体2:その労務に残業手当が出にくい構造

発表会前の残業は、申請がしにくい園が少なくありません。「子どものために」「みんなやっている」「持ち帰りなら時間外じゃない」という空気のなかで、実際の労働時間と賃金の帳尻がずれていきます。

本来、職員室で行う発表会準備は労働です。家で衣装を縫う時間も労働です。ここを言語化しないまま「行事だから仕方ない」で吸収していくと、心と体が同時に削れます。残業代の整理については後段で別記事を案内します。

正体3:保護者の評価軸が「うちの子の出番」中心になりがち

準備に何ヶ月かけても、当日の保護者の感想は「うちの子の出番が少なかった」「他のクラスのほうが豪華だった」「動画が見にくかった」に偏ることがあります。これは保護者が悪いのではありません。我が子を見たいのは当然です。ただ、保育士が積み上げた準備量と、評価される軸がずれているという事実が、消耗を加速させます。

👩
保育士Aさん
「『去年より地味だね』って一言で、何ヶ月分の準備が消える感覚になるんです。その一言だけで、来年も同じ規模を続けようと決まる空気もあって」

3つを並べて見ると、行事そのものへの違和感ではなく、「準備量×労務×評価軸」の組み合わせが「ひどい」の中身だとわかります。


発表会そのものを否定したいわけではない、ということ

ここを混ぜないことが大事です。発表会には、本来の価値があります。

1年かけて関係を作ってきたクラスが、ひとつのものを一緒につくる。緊張のなかで自分の役をやりきる。保護者に成長を見てもらう。同じ舞台に立つ仲間と支え合う。子どもの育ちにとって、この経験はかけがえのないものです。

だから「発表会は無意味だ」と言いたいのではありません。本来の価値と、いまの準備量・労務・評価軸の問題は別の話だ、と言いたいだけです。

この2つを混ぜずに切り分けられたら、自分の中の罪悪感が少しほどけます。「私は子どもの行事を嫌っているわけではない。消耗する構造に疲れているだけだ」と言えるからです。


個人ではなく、職員集団で「削る」議論をする

消耗を減らすために、いきなり個人で動かないでください。担任ひとりが「衣装を簡素にしたい」と言うと、温度差のある園では浮きます。動くなら、まず学年で合意を取ります。

削れる可能性が高いリスト

  • 衣装の手作り部分(既製品+名札程度に置き換え)
  • 通し稽古の回数(半分にしても本番のクオリティは大きく変わらないことが多い)
  • 動画配信用の二次素材(編集が必要なものは見送る)
  • 小道具の追加装飾(最低限の機能だけ残す)
  • 当日の保護者向け配布物(必要なら紙1枚にまとめる)

主任・園長への持っていき方

「担任の私が大変なので」ではなく、「学年で話し合って、今年はここを削ろうと決めました」と伝えます。個人意見ではなく合意として持っていくと、主任や園長も判断しやすくなります。

削った内容と理由は書面で残します。来年度に同じ議論をゼロからやり直さないためです。年間行事計画の整理は別記事で扱っているので、リンクを置きます。

年間行事計画の整理、提出物のひな型は 連絡帳の書き方 を参照にしてください。

🧑
保育士Bさん
「うちの学年で『今年は衣装を3割減らす』って合意したら、空気が一気に変わったんです。誰かが言い出すと、待ってましたって人が複数いた」

個人で削れない園にいるなら

学年で合意を取ろうとしたのに通らない。主任に話したのに「去年通りで」と言われた。園長が動画配信や装飾の規模を年々大きくしたがる。こういう園は、保育士個人の努力では構造を変えられません。

この場合、行事疲れは「あなたが弱いから」ではなく、園の方針と労務管理の問題です。判断材料を整理しておきます。

  • 発表会前後で毎年体調を崩している
  • 残業時間の正確な記録が取れていない、または取らせてもらえない
  • 持ち帰り作業が常態化しているのに、申請手段がない
  • 削減提案を出すと、人格批判が返ってくる

このうち3つ以上当てはまるなら、辞める/移る選択肢を真剣に検討していい段階です。残業代の整理は 残業代の請求と整理 、転職の見取り図は 保育士の転職ロードマップ を読んでみてください。


発表会のために毎年体調を崩します。これは私が弱いだけですか?

いいえ、違います。

同じ園で複数の保育士が発表会前後に体調を崩しているなら、それは個人の体力や根性の問題ではなく、園の準備量と労務分担の問題です。1人だけが倒れているなら個人の事情の可能性もありますが、複数なら構造の話です。

「弱いからだ」と自分を責めると、対処方法を見失います。「この園の発表会の組み立て方が、複数の保育士を毎年消耗させている」と言葉にできれば、削る議論を始められます。それでも変わらないなら、移ることに罪悪感を持つ必要はありません。

人間関係の側面で行き詰まっているときは 保育士の人間関係に悩んだときに読む記事 もあわせてどうぞ。


発表会の翌週、まずやってほしい3つ

当日が終わって、いま消耗の真っ只中にいる方へ。

  1. 記録を取る:今年の準備で、何時間・何日かかったかを書き出す。手書きでもメモアプリでも構いません。翌年の議論の材料になります。
  2. 削れた候補を3つだけ書く:「これは要らなかった」と思った項目を3つだけ。完璧なリストは必要ありません。
  3. 1週間は休む側に倒す:定時で帰る、夜は早く寝る、休日は予定を入れない。次の行事の準備をすぐに始めない。

これだけで、来年の発表会への向き合い方が変わります。記録のない「ひどかった」は来年も繰り返されますが、記録のある「ここを削る」は議論になります。


「保育園の発表会がひどい」に関するFAQ

「発表会がひどい」と感じるのは、自分の体力や根性が足りないからですか?

いいえ、ほとんどの場合は園の準備量と労務管理の構造の問題です。

同じ園で複数の保育士が発表会前後に体調を崩しているなら、個人の問題ではなく構造の問題と捉えるのが妥当です。1人だけが倒れているケースは個別事情の可能性もありますが、複数なら準備量の肥大、残業申請の難しさ、評価軸のずれが重なっています。自分を責める前に、構造として言語化することをおすすめします。

発表会の準備量を減らしたいとき、まず何から動けばいいですか?

担任ひとりで動かず、まず学年で合意を取ってください。

個人意見として主任や園長に持っていくと温度差で浮きます。「学年で話し合って、今年はここを削ろうと決めました」という形にすると判断材料になります。削れる可能性が高いのは、衣装の手作り、通し稽古の回数、動画配信の二次素材、追加の小道具装飾、保護者向け配布物の5項目です。削った内容と理由は書面で残し、来年度の議論の起点にしてください。

発表会前後の持ち帰り作業に、残業代は請求できますか?

本来、業務指示に基づく作業時間は労働時間です。

家での衣装作成や装飾作りも、園からの指示や合意が前提なら労働時間に含まれる可能性があります。ただし運用は園によって異なるため、まず実際にかかった時間の記録を残すことが先です。記録なしで請求の議論は進みません。詳しい整理は別記事の残業代の項目を参照してください。

削減提案を出したら主任や園長に否定されました。どうしたら?

否定の中身が「内容への反論」なのか「人格批判」なのかで判断が変わります。

内容への反論なら議論が成立するので、根拠を整えて再提案する余地があります。一方、提案するだけで人格を否定される、毎回怒鳴られる、提案者扱いを避けられる、といった反応が続く場合は構造的な硬直園です。削減提案を出すと人格批判が返ってくる、残業記録を取らせてもらえない、複数の保育士が体調を崩している、のうち3つ以上当てはまる場合は、辞める/移る選択肢を真剣に検討していい段階です。

発表会が終わったあと、消耗から早く回復するには?

記録を取る、削れた候補を3つ書く、1週間は休む側に倒す、の3つです。

かかった時間と「これは要らなかった」と思った項目を3つだけ書き出します。完璧なリストは必要ありません。あわせて1週間は定時で帰り、夜は早く寝て、休日に予定を入れない。次の行事の準備をすぐに始めないことが、消耗からの回復に直結します。記録のない「ひどかった」は来年も繰り返されますが、記録のある「ここを削る」は来年の議論になります。


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