「主任って、どうやってなるんですか?」

先日、後輩の保育士にそう聞かれた。彼女は認可園で3年目。担当する3歳児クラスの運営が安定してきて、次のステージを考え始めたタイミングだったらしい。

答えに詰まった。私が主任になった経緯は、あまり参考にならない。園長に「次、やってみる?」と打診されて、軽い気持ちで引き受けたら、気づいたら主任の名札がついていた——そんな曖昧な昇進だったから。

でも後輩にそう言うわけにはいかない。彼女が知りたいのは「制度としてのルート」のはずだ。何年働けば候補になるのか。どんな研修を受ければいいのか。給与はどれくらい上がるのか。

帰宅してから資料を漁った。そうしたら、自分が主任になった頃(2018年頃)と今では、制度がかなり変わっていた。処遇改善加算IIの本格運用、キャリアパス要件の厳格化、2026年度からの完全必須化——知らないままだと、せっかくのチャンスを逃す人が出てくる。

この記事は、あの後輩に渡すつもりで書いた。


主任保育士とは——「ベテラン保育士」ではなく、管理職の入口

まず定義を揃えよう。

主任保育士とは、園の現場運営を束ねる中間管理職だ。園長の下で、クラス担任を横断して指導・調整を行う立場を指す。

現場での役割を並べると、こうなる。

  • クラス担任の指導・育成(特に若手や新人のフォロー)
  • シフト作成・有給取得の調整
  • 行事の企画・進行管理
  • 保護者対応の最終窓口(担任で収まらないケース)
  • 園長不在時の代行判断
  • 採用面接への同席

つまり、自分のクラスを持つと同時に、園全体の運営にも関わる。プレイングマネージャーに近い立ち位置だ。

👩
保育士Aさん
「主任ってベテラン保育士のことだと思ってました。管理職なんですか?」

違う。「長く勤めてるだけ」では主任にはならない。管理職として現場を動かす意思と能力がある人が、園長から指名されて就任する——これが本来の姿だ。

ベテラン保育士と主任保育士は別物。ここを混同したまま昇進すると、後でしんどくなる。


昇進までの標準年数——20代後半〜30代前半がボリュームゾーン

「何年働けば主任になれるか」——結論から書く。

保育士経験7〜10年、年齢でいうと28〜33歳あたりが標準的な昇進タイミングだ。もちろん園の規模や人員構成によって前後する。小規模園なら5〜6年目で打診されるケースもあるし、大規模園では12〜15年目にずれ込むこともある。

標準的なルートを分解すると、こうなる。

経験年数 ポジション 役割
1〜3年目 担任(補助・副担任含む) クラス運営の基礎を覚える
4〜6年目 担任(主担任) 単独でクラスを回せる状態
5〜7年目 職務分野別リーダー 専門領域のリーダー役
7〜10年目 副主任・専門リーダー 主任候補として準備期間
10年目〜 主任保育士 園の運営側へ
👩‍🏫
ベテラン先生
「絶対にこの順番で進むわけではないんです。園によっては『専門リーダーを飛ばして副主任』というパターンもあるし、『職務分野別リーダーを複数経験してから副主任』というパターンもある。でも2026年からは、このキャリアパスを経ないと処遇改善加算IIが取れなくなるから、園側も本気で整備し始めています」

ここが次のセクションにつながる。


キャリアパス要件2026——2026年度から完全必須化

2017年に処遇改善加算IIが始まってから、保育士のキャリアパスは国が仕組みとして整備してきた。

そして2026年度(2026年4月〜)から、キャリアアップ研修の修了が処遇改善加算IIの支給要件として完全必須化される。猶予期間は終わった。

役職ごとの要件を整理する。

副主任保育士

  • 保育士経験:概ね7年以上
  • キャリアアップ研修:4分野以上 × 各15時間 = 60時間以上修了
  • 必須分野:マネジメント分野(必須)+3分野以上(乳児保育/幼児教育/障害児保育/食育・アレルギー/保健衛生・安全対策/保護者支援・子育て支援 から選択)
  • 月額加算:40,000円

専門リーダー

  • 保育士経験:概ね7年以上
  • キャリアアップ研修:4分野以上 × 各15時間 = 60時間以上修了
  • マネジメント分野は不要(専門領域4分野以上)
  • 月額加算:40,000円

職務分野別リーダー

  • 保育士経験:概ね3年以上
  • キャリアアップ研修:担当分野1分野 × 15時間 = 15時間以上修了
  • 月額加算:5,000円
🧑
保育士Bさん
「男性保育士は昇進ルートで不利って聞いたことがあるんですが、制度的には差はないんですか?」

制度上の差はない。ただし現場実態として、男性保育士が主任になるには園の理解と地域性が要る。男性主任が成立している園は、保護者対応のバリエーションが増えるという利点を認識しているところが多い。保育士Bさんが言ってくれたように、千葉から職住近接に動いて男性主任を目指すなら、園選びの段階で「現在の管理職に男性がいるか」を必ず見ておこう。


給与加算の実額——主任で月額40,000円、年間48万円

処遇改善加算IIの支給額は、役職によって決まっている。

副主任保育士・専門リーダー:月額40,000円(年間480,000円)
職務分野別リーダー:月額5,000円(年間60,000円)

主任保育士(副主任から昇格した実質的な主任ポジション)の給与構造は、ざっくり以下のようになる。

項目 金額(月額)
基本給 240,000〜260,000円
役職手当(主任手当) 10,000〜30,000円
処遇改善加算II(副主任枠) 40,000円
その他手当(調整・住宅等) 園による
合計(額面) 290,000〜330,000円

年収換算で350〜420万円程度。担任時代(月22〜24万円、年収264〜288万円)から比較すると、年間で80〜130万円のアップになる。

ただし注意点がある。処遇改善加算IIは「研修修了者」に支給される。研修を受けていない期間は加算がつかない。園によっては「主任の辞令は出すが、加算は研修修了後から」という運用もある。

👩
保育士Aさん
「40,000円のために60時間の研修……時間は大変だけど、年間48万円なら、何年も積み重ねたら大きい金額ですよね」

そう。そして研修は転職しても無効にならない。一度修了すれば、次の園でも実績として扱われる。「今の園で主任になれなくても、研修だけは受けておく」というのは合理的な選択だ。


主任の業務——1日のリアル

制度の話が続いたので、現場の話に戻す。主任保育士の1日を、私の過去の経験から再構成する。

7:00 出勤、延長保育の状況確認、園児の体調メモを一読
7:30 早番の保育士と引き継ぎ、気になるケース共有
8:30 自クラス(4歳児)の朝の受け入れ開始
10:00 主活動。この時間帯は基本的に担任業務
12:30 昼食・午睡。午睡中に書類仕事と翌日のシフト最終確認
14:00 若手職員との面談(週1回の枠で交代で実施)
15:00 延長保育の人員調整、保護者からの相談対応
16:00 自クラスの降園対応
17:00 園長との短いミーティング、翌日の確認
18:00 退勤

午睡中と夕方の隙間時間に管理業務を詰め込むスタイルだ。

特にしんどかったのは、保護者対応の最終窓口人事関与の2つ。

担任で解決できないクレーム——たとえば「お友達に噛まれた件の対応が不十分」「行事の内容に納得できない」——こういうケースは主任が前に出る。担任を守りながら、園の方針を保護者に説明する役回りだ。

人事関与は、採用面接の同席や若手の評価提出だ。園長が最終決定するが、主任の意見は重く扱われる。「この子は伸びそう」「この子はうちの園風に合わない」——そういう判断を言葉にして残さないといけない。気が重い日もあった。

🧑
保育士Bさん
「担任業務と管理業務を両方やるって、時間的にどうやって回してるんですか?」

正直、定時では終わらない日が多かった。後で書くけど、ここが主任の落とし穴でもある。


主任になる前に準備しておく5つ

主任の打診が来てから慌てても遅い。打診されるまでに準備しておくべきことを5つ挙げる。

1. キャリアアップ研修を先に受けておく

副主任枠で処遇改善加算IIを取るには60時間の研修が必要だ。仕事をしながら受けると1〜2年かかる。打診されてから受け始めると、昇進後しばらく加算がつかない期間が発生する。

目安として、6年目になったらマネジメント分野から受け始めるのがいい。都道府県が主催する無料の研修で、週末開催が多い。

2. シフト作成の仕組みを理解しておく

主任の業務で最も時間を食うのがシフト作成だ。「誰が何曜日に休みたがっているか」「有給の消化バランス」「行事の前後は誰を厚めに配置するか」——これを毎月組む。

担任のうちから、自分の園のシフト表を意識して見ておこう。「主任はどうやって組んでいるんだろう」という視点で。

3. 保護者対応のクレームケースを記憶しておく

主任になると、担任で解決できなかったケースが全部回ってくる。そのときに「過去に似たケースがあったな」と思い出せるかどうかで、対応の質が大きく変わる。

担任時代に同僚が困っていたケース、主任が対応していたケース——これを「自分だったらどう対応するか」という視点で観察しておく。メモを残しておくと、なお良い。

4. 園長と話す習慣をつけておく

主任は園長の右腕になる。でも急に「右腕です」と言われても、考え方が合わないと破綻する。

担任時代から、月1回でいいので園長と短い会話をする習慣をつけておこう。「このクラスで困っていることがあるんですが」「来年度の方針について気になることが」——そういう会話の積み重ねが、園長の判断軸を理解することにつながる。

5. 自分の体力・家庭の事情を見直す

主任になると、残業が増える時期がある。行事前・年度末・採用時期は特に。

昇進を打診される時期は、ちょうど結婚・出産・育児のタイミングと重なりやすい。「主任になってから出産でしばらく休む」というのは、園側の計算を狂わせる。後輩への引き継ぎコストも大きい。

家庭の状況と自分の体力を見て、「この3年間は主任として全力で働ける」と言えるかどうか——ここを一度自分に問うておこう。


主任になって後悔した人の話——2つのパターン

主任になって良かったという人も多いが、後悔したという人の話も聞く。大きく2パターンある。

パターン1:労働時間が膨らんで生活が壊れた

担任業務を持ちながら管理業務を引き受けると、物理的に時間が足りなくなる。特に人手不足の園では、担任の穴埋めも主任がやる構図になりやすい。

知り合いの主任(当時34歳)は、昇進後1年で月残業80時間超になった。家族との時間が取れなくなり、2年目の途中で主任を降りて転職した。「加算40,000円のために残業80時間は割に合わない」と言っていた。

教訓:残業時間が膨らみ始めた段階で、園長に明確に訴える。改善されないなら降格か転職を視野に入れる。

パターン2:同期との関係が孤立した

主任になると、評価する側と評価される側の線が引かれる。昨日まで同じランチテーブルにいた同期が、急に距離を置く——この現象は現実に起きる。

別の知り合いは、昇進後に同期から「最近近寄りがたい」と言われた。悪気があったわけではない。ただ「主任」という役職が、関係性の前提を変えてしまった。

教訓:昇進後、最初の半年は人間関係のリセットコストが発生する。覚悟しておく。

どちらのパターンも「主任になった後に分かった」というのが共通点だ。だから準備5つの5番目に「家庭・体力」を入れた。


私が主任になった頃の話

最初に書いた通り、私が主任になったのは30歳の年だった。当時、勤めていた園で7年目。職務分野別リーダー(食育担当)を2年やって、副主任を1年やった次に、主任の打診が来た。

打診された当日、家で夫に話した。夫の反応は「やりたいなら、やったら」だった。それで引き受けた。軽い決断だった。

主任になってからの1年目は、正直しんどかった。特に最初の半年は、担任業務と管理業務の切り替えがうまくできなかった。午睡中にシフトを組みながら、子どもの午睡見守りのタイミングを逃したり、保護者対応の電話中に自クラスの担任から「先生、〇〇ちゃんが……」と呼ばれて頭が真っ白になったり。

2年目から少しずつ慣れた。3年目には、加算込みで年収が390万円になった。担任時代から比べると年間100万円アップ。これは素直にありがたかった。

ただ、あの時期に出産を経験した同期が主任を降りたのを見て、「自分のタイミングで良かった」と思ったのも事実だ。キャリアと家庭は、タイミングで決まる部分が大きい。


主任を目指すなら、評価制度と研修支援で園を選ぶ

記事の締めに実務的な話を。

主任を目指すなら、転職時の園選びが重要だ。チェックすべきポイントは2つ。

1. 評価制度が明文化されているか

「何年目で副主任候補になれるか」「どの研修が昇進要件に含まれるか」——これが明文化されている園は、キャリアを計算できる。逆に「園長の気分次第」で昇進が決まる園は、いくら頑張っても先が見えない。

2. キャリアアップ研修の受講支援があるか

副主任枠の60時間研修を自費・自分の時間だけで受けるのは現実的にきつい。受講料補助、勤務時間内の受講許可、代替要員の手配——このあたりの支援が明確な園を選ぼう。

現在の園で主任を目指すのが難しいと感じているなら、転職エージェントに「キャリアパスが整備されている園」「主任候補として採用してもらえる園」を相談するのが近道だ。

レバウェル保育士は主任候補の求人を多く扱っていて、園ごとの評価制度や研修支援の有無まで踏み込んで確認してくれる。「今の園では主任が見えない」「キャリアパスが整備された園に移りたい」という相談が一番通じるエージェントだと思う。

レバウェル保育士

主任保育士は、保育士の一つのゴールではない。現場の運営を動かす管理職という、別のスタートラインだ。

自分のタイミングと、園の体制。両方が揃ったときに、昇進のチャンスはやってくる。それまでに準備しておくものは、この記事に全部書いた。

後輩に渡すつもりで書いた記事が、誰かの役に立ったら嬉しい。


この記事の制度情報は2026年4月時点のものです。処遇改善加算IIの支給額・要件は自治体と園の運用で異なる場合があります。正確な条件は勤務先の就業規則と自治体の通知をご確認ください。

主任保育士のキャリアについてよくある質問

主任保育士になるには何年の経験が必要ですか?

保育士経験7〜10年、年齢で28〜33歳あたりが標準的な昇進タイミングとなります。

小規模園なら5〜6年目で打診されるケースもあり、大規模園では12〜15年目で初めてチャンスが来る場合もあります。経験年数より「クラス運営が安定してきたタイミング」で園長から声がかかるのが現場のリアルです。

主任保育士の役割はどんな仕事ですか?

クラス担任の指導・シフト調整・行事管理・保護者対応の最終窓口を、一手に担います。

自分のクラスを持ちつつ園全体の運営に関わるプレイングマネージャー。担任の指導、有給取得の調整、行事の企画進行、担任で収まらない保護者対応、園長不在時の代行判断、採用面接同席まで業務範囲が一気に広がります。

主任になると年収はどれくらい上がりますか?

副主任からの昇進で月3〜5万円、年収では40〜60万円アップが現実的な相場感です。

副主任で月4万円の処遇改善加算IIに加え、主任手当が月2〜3万円上乗せされます。一般保育士から主任に上がると基本給含め年収50〜70万円増、私立認可園で400〜450万円帯まで到達するのが標準的な水準です。

主任保育士とベテラン保育士の違いは?

主任は管理職で園長から指名される役職、ベテランは勤続年数による呼称の違いとなります。

長く勤めただけでは主任にはなれません。管理職として園を動かす意思と能力がある人が園長から指名されて就任するのが本来の姿。ベテラン保育士=主任ではなく、現場で動き続けたい人は主任を辞退する選択肢もあります。

主任保育士になりたくない場合の道は?

専門リーダーや職務分野別リーダーとして、専門性で昇給する選択肢が用意されています。

副主任・主任に上がらず、専門リーダー(月4万円加算)や職務分野別リーダー(月5,000円加算)として現場で専門性を発揮する道です。乳児保育・食育・保健衛生など特定分野で園内のリーダーを務める形が選べます。


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