慣らし保育の安心のさせ方|初日から泣き止ませる7つのテクニックと、保護者への伝え方
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4月2日、月曜日の朝9時。
1歳2ヶ月の男の子が、お母さんの腕から離れた瞬間に泣き始めた。
抱っこに切り替えて、背中をトントンして、窓の外の桜を見せて——でも泣き止まない。
泣き声は高くなって、しゃくり上げて、途中から声が嗄れ始める。
気づいたら2時間経っていた。腕はガクガク。自分の肩口はよだれと涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。
慣らし保育、初日の洗礼。
保育士13年目、ディズニー好きが高じて30歳過ぎに関西から上京して、今は都内の認可園で0〜2歳クラスを担当している私でも、4月の慣らし保育は毎年ちょっと身構えます。
特に初めて慣らし保育を担当する若手には、あの2時間がどれだけ長いか、伝えきれない。
今日は、慣らし保育で子どもと保護者を安心させる7つのテクニックと、お迎え時の伝え方をまとめます。
「進め方マニュアル」はよそでもよく見ますが、この記事は泣き止まない初日をどう乗り切るかに振り切って書きます。
冒頭の話:保育士Aさんが泣かれ続けた日
まず、うちの後輩、保育士Aさん(埼玉認可園2年目)の話から。
去年の4月、彼女は1歳児クラスで初めて慣らし保育の担当になりました。担当した男の子は、朝の受け入れで預けられた瞬間から火がついたように泣き始めて、そのまま2時間。
分かる。すごく分かる。
私も新人の頃、全く同じ状況で、控室でこっそり泣いたことがあります。
でも、知っておいてほしいことがある。
慣らし保育で泣くのは、その子が「異変を察知する力」を持っている健全な証拠なんです。
泣かないほうが珍しい。泣き止まないことに、保育士の力量はあまり関係ない。
ここから7つのテクニックを紹介しますが、大前提としてこれを頭に置いてほしいです。
そもそも慣らし保育とは
慣らし保育(慣れ保育)とは、新入園児が集団生活に少しずつ慣れるために、入園初日から1〜2週間かけて保育時間を段階的に延ばしていく期間のこと。
一般的なスケジュールはこんな感じです。
- 1〜2日目:9:00〜10:30(1時間半)
- 3〜4日目:9:00〜11:30(昼食前まで)
- 5〜6日目:9:00〜13:00(昼食+短い午睡)
- 7〜8日目:9:00〜15:00(午睡明けまで)
- 9日目以降:通常保育へ移行
ただしこれはあくまで標準。子どもの状態によって延長したり、保護者の復職日との兼ね合いで調整したり、園ごと・担任ごとに判断が入ります。
ちなみにうちの園では、「初日は最短30分で切り上げてもOK」というルールにしています。無理をさせるより、「ここは安全な場所だ」という印象を残して帰すほうが、2日目以降が圧倒的に楽だから。
愛着形成の基礎——「安全基地」になるということ
テクニックに入る前に、ベテラン先生役として少しだけ心理学の話を。
ジョン・ボウルビィが提唱した愛着理論(アタッチメント理論)では、乳幼児は特定の大人を「安全基地」として、そこから離れたり戻ったりしながら世界を探索する、とされています。
普段、お母さん・お父さんが安全基地になっている子にとって、慣らし保育は安全基地から引き剥がされる体験。
そりゃ泣く。泣かないほうがおかしい。
でも、ここで大事なのは——保育士は、新しい安全基地になれるということ。
最初は「お母さんじゃない誰か」でも、何日か通ううちに「泣いたら抱っこしてくれる人」「ご飯をくれる人」「眠くなったらトントンしてくれる人」として、子どもの中に新しい愛着対象として刻まれていきます。
この視点があると、泣かれ続けても自分を責めすぎずに済みます。
安心させる7つのテクニック
ここからが本題。
初日〜3日目に私がよく使っているテクニックを、順番に紹介します。
技術1:抱っこ・スキンシップは遠慮しない
「抱き癖がつく」は今やほぼ否定されている考え方です。
特に慣らし保育期間は、抱っこは惜しまず。
- 立って抱く
- 座って膝に乗せる
- 背中トントンしながら歩く
- 肩に顎を乗せさせる
子どもによって落ち着く姿勢が違うので、何パターンか試します。男の子で活発な子ほど、縦抱きで歩き回るのが落ち着くケースが多い印象。
技術2:保護者の匂いがするものを受け入れる
入園時に「お気に入りのタオルやぬいぐるみがあれば持ってきてOK」とアナウンスしておく園は多いです。
匂いつき移行対象(transitional object)は、心理学的にも乳幼児の不安軽減効果が認められている手段。
お母さんが普段使っているハンカチ、家の匂いがする薄手のブランケット、使い込んだタオル——こういうものを握らせるだけで、ピタッと泣き止む子も珍しくないです。
ただし、誤飲リスクのあるサイズのものや、紐状のものは×。衛生面の園ルールに沿って受け入れ可否を判断してください。
技術3:目線を合わせて小声で話しかける
泣いている子に対して、つい大きな声で「大丈夫だよー」と言いがち。
でも、大声は不安を増幅させることがあります。
私はよく、抱っこした状態で、耳元で小さい声でゆっくり話しかけます。
「大丈夫。大丈夫。今日はここで遊んで、お昼前にお母さん来るからね」
言葉の意味は分からなくても、低くて穏やかな声のトーンは安心材料になります。
ちなみに「ママ来るよ」は嘘になるリスクがあるので後述します(技術7)。
技術4:好きな遊びを静かに差し出す
事前に保護者から聞き取った「家での好きな遊び」を、泣いている子の視界の端に静かに置きます。
- 音の出るおもちゃ(ガラガラ・太鼓)
- 動物の絵本
- シール貼り
- 水の入ったペットボトル
ポイントは「押し付けない」こと。
「これで遊ぼう?」と顔の前に突き出すと、拒否される。
見える位置にそっと置いて、自分は少し離れる。興味を持った瞬間を待つ。これで反応が変わる子が結構います。
技術5:無理に食べさせない・飲ませない
慣らし保育初日の昼食やおやつで、一口も食べない・飲まない子は珍しくないです。
ここで無理に口に運ばない。
吐いてしまうと、「食事=嫌なこと」という記憶が定着して、翌日以降も食べなくなります。
一口も食べなくても、「今日は食べなかったね、水分は少しだけ取れたよ」で終わり。
家で食べてくれたら大丈夫です。
水分も同様。麦茶・お水・園の牛乳を嫌がる子には、保護者に確認の上で、家で使っているマグ・哺乳瓶の持参を許可する園もあります。
技術6:午睡は抱っこで入眠OK
慣らし保育中は、布団で寝られなくて当然と思ってください。
- 抱っこで寝かしつけ、寝入ったらそっと布団に下ろす
- おんぶで寝かしつける
- 保育士の足に乗せた状態でトントン
最初の1週間で「布団で自然に寝る」を目指す必要はありません。まず「園で眠れる」を達成することが目標。
布団で寝るのは、安心が積み上がってからの次の段階。
技術7:「ママ・パパ来るよ」は約束しない
これは意外と見落とされがちなポイント。
「お母さん、あとちょっとで来るからね」
「もう少ししたらパパ来るよ」
この時間の約束は、嘘になる可能性が高い。
慣らし保育は予定通りに進まないこともあるし、保護者が遅れることもあります。
嘘つかれた、と子どもが感じると、保育士への信頼がゼロリセットされます。
代わりに私が使うのは、
「お母さん、ちゃんと来てくれるよ。それまで先生と遊ぼうね」
「お迎え、必ず来るからね。大丈夫」
時刻を約束せず、「必ず来る」という事実だけを伝える。これが鉄則です。
泣き止まない時の対応3段階
7つのテクニックを試しても泣き止まない時の、私の中の手順はこれ。
段階1:気をそらす
今いる場所で、別の刺激を与える。
- 違うおもちゃを取り出す
- 絵本を開く
- 音の出るおもちゃを鳴らす
- 鏡の前に連れていく(自分の泣き顔に驚いて止まる子がいる)
段階2:場所を変える
同じ保育室で泣き続けている時は、物理的な環境ごと変える。
- 隣の保育室に行ってみる
- 廊下を歩いてみる
- 別のクラスの子をちょっと見に行く
環境が変わると、脳のモードが切り替わって泣き止むケースが多いです。
段階3:外の空気
それでもダメな時は、園庭や玄関先に出る。
外の空気、風、日差し、鳥の声——室内と情報量が全然違う。
0歳児でも、外に出た瞬間にピタッと泣き止むことは珍しくないです。
ただし、園のルールで外出時の引率ルールや人数配置がある園が多いので、必ず他の保育士に声をかけて、複数体制で動くこと。
兄弟姉妹・他の子の存在を活用する
慣らし保育では、子どもは子どもから学ぶという視点も大事。
- 少し先に入園していた子が楽しそうに遊んでいるのを見せる
- 兄姉が同園にいる場合、少し時間を取って会わせる
- 年上クラスの子が遊びに来てくれる時間を作る
「他の子が平気そうにしている」という情報は、保育士がどれだけ言葉で説明するより強いです。
保護者への伝え方——同じくらい不安
慣らし保育で不安なのは、子どもだけじゃない。
保護者のほうが不安なことも多いです。
特に第一子を預けるお母さんは、「泣いてたんじゃないか」「ちゃんとごはん食べたか」「私がいないと駄目なんじゃないか」と、仕事中もずっと考えています。
お迎え時の声かけテンプレ
お迎えの第一声は、「今日いちばん良かったこと」から入る。
「お母さんお疲れさまです! 〇〇ちゃん、午後の15分くらい、ブロックを握って集中して遊んでました」
これを最初に言うだけで、保護者の表情が変わります。
その後に、泣いていた時間や食事の様子を「事実として」伝える。
「泣いてました」の伝え方——ネガポジ変換
同じ事実でも、切り取り方で印象が全然違う。
悪い例:
「今日は1時間ずっと泣いてました」
良い例:
「最初の1時間は涙が出ていたんですが、11時過ぎからは私の膝の上で絵本を見られました。最後の30分は抱っこで眠れています」
同じ事実でも、「泣いていた時間」より「落ち着いた時間」にフォーカスする。
保護者が安心できる情報を先に、心配になる情報は事実として短く。
ただし嘘はつかない。
「全然泣いてませんでしたよー」は、子どもの顔が腫れていたり声が嗄れていたら一発でバレます。信頼が崩れます。
連絡帳で初日〜3日目に書くこと
連絡帳は、保護者が「園での我が子」を想像する唯一の窓です。
初日の連絡帳テンプレ:
- 登園時の様子(ひと言)
- 園での過ごし方(具体的なエピソード1つ)
- 食事・睡眠・排泄
- 明日に向けた見通し
- 保育士からのひと言
悪い例:
「今日は泣いていました。明日もお願いします」
良い例:
「今日は初日お疲れさまでした。登園時に少し涙が出ましたが、お昼前には先生の膝で絵本を3冊一緒に見られました。給食はスープを少し、午睡は抱っこで40分ほど眠れています。明日はもう少し食事が進むといいなと思います。おうちでゆっくり休んでくださいね」
エピソードが1つでも具体的にあると、保護者の安心度が全然違う。
慣らし保育スケジュールのアレンジ
スケジュール通りにいかない時の判断軸を書いておきます。
延長すべきサイン
- 食事が3日連続で一口も入らない
- 水分摂取が極端に少なく、排尿が減っている
- 夜、家で眠れていないと保護者から報告がある
- 登園時の拒否反応が日に日に強くなっている
この場合、園長・主任と相談の上で、保護者に延長を提案します。
短縮できるサイン
- 初日から泣かずに遊べた
- 3日目には保育士に笑顔を見せる
- 食事・午睡が自然にできている
この場合、保護者の復職スケジュールに合わせて前倒しも可能。
保護者の復職日との調整
保護者の復職日は、園の都合では動かせない現実があります。
「復職日があるので、スケジュール通り進めたい」
「でも子どもはまだきつそう」
このジレンマは必ず起こります。
園として大事なのは、「延長する/しない」をこちらが独断で決めないこと。
保護者に状況を伝えて、一緒に判断してもらう。ここを雑にすると、後でトラブルになります。
泣き続ける子の背景を見る
1週間経っても激しく泣き続ける子は、背景に何か要因があることが多いです。
家庭環境
- 引越し直後で家族全体の環境が変わっている
- 下の子が生まれたばかりで上の子が不安定
- 里帰りから自宅に戻ったばかり
前の保育歴
- 初めての集団生活で情報量に圧倒されている
- 前の園で嫌な経験があった(まれだが、ある)
発達特性の可能性
5日以上経っても感覚過敏・切り替えの難しさ・強いこだわりが見られる場合、発達特性の可能性も視野に入れて観察します。
ただし、「発達障害かも」と保育士が安易に決めつけたり、保護者に直接伝えたりするのは絶対NG。
観察記録を残して、園長・看護師・発達支援の専門家と連携する、というのがセオリーです。
保育士自身のメンタルケア
最後に、大事な話。
慣らし保育は、保育士のメンタルが一番消耗する時期です。
泣き声を何時間も聞き続けると、脳がストレスホルモンでいっぱいになります。
肩と腕は筋肉痛、自分の服は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ、帰りの電車で涙が出てくる——これ、全員通ってきた道。
保育士Cさんの話、すごく多くの保育士が通る道だと思います。
だから、これだけは覚えておいてください。
他の先生と共有する
一人で抱え込まない。
その日の夕方、他の先生に「今日〇〇くん、2時間泣き止みませんでした」と話すだけで、肩の荷が半分になります。
共有すると、翌日のシフト調整で応援をもらえたり、別の視点からのアドバイスがもらえたりもします。
「私のせいじゃない」と切り分ける
泣き止まないのは、あなたの力量不足じゃない。
その子の気質・発達段階・家庭の事情・その日の体調——複雑な要因の結果です。
「私がもっと上手だったら泣き止むのに」と自分を責めても、子どもは泣き止まない。
切り分けて、次の日に備える。これが長く続けるコツです。
体制が整っている園を選ぶのも自己防衛
慣らし保育の時期、新人が一人で複数の新入園児を担当する園は、本当につらいです。
- 複数担任(最低でも2人体制)
- フリー保育士がサポートに入る
- 園長・主任が積極的に現場に入る
こういう体制がある園なら、慣らし保育の消耗度は全然違います。
もし今、体制の薄い園でつぶれそうになっているなら、園を変える選択肢も持っておいてください。
転職エージェントの中では、レバウェル保育士

が、複数担任制や手厚い配置の園情報を持っていることが多いです。「慣らし保育を新人一人に任せない園」という軸で聞いてみるのもアリだと思います。
ちなみにレバウェル保育士は、職場の雰囲気や人員配置の内部情報を教えてくれるので、体制で園を選びたい人には向いています。
まとめ:慣らし保育は「安心する土台」を作る時間
長くなりましたが、伝えたかったことを整理します。
- 慣らし保育で泣くのは当たり前。泣き止ませることより、「ここは安全」と感じてもらうことが目標
- 安心させる7つのテクニック——抱っこ・匂い・小声・好きな遊び・無理に食べさせない・抱っこ入眠・時間の約束はしない
- 泣き止まない時は3段階——気をそらす→場所を変える→外の空気
- 保護者への伝え方——今日いちばん良かったことから入る・ネガポジ変換・連絡帳に具体エピソード1つ
- 保育士自身のメンタル——一人で抱えない・私のせいじゃないと切り分ける
慣らし保育は、その子が安心する土台を作る時間。
1週間で土台ができたら、その後の園生活は圧倒的に楽になります。
焦らず、一緒にその子のペースを待ちましょう。
今日、明日、泣き止まない子を抱っこしてヘトヘトになっているあなたへ。
その2時間の抱っこは、絶対に無駄にはなっていません。
その子の中に「この先生は、私が泣いている時にずっとそばにいてくれた」という記憶が、確実に残っています。
お疲れさま。
明日もまた、ここで会いましょう。
この記事は、都内認可園で0〜2歳クラスを13年担当している保育士(ディズニー好き・関西出身)の実体験をベースに、後輩の保育士Aさん・保育士Cさんの経験と、先輩からの指導を織り交ぜてまとめました。
慣らし保育の進め方についてよくある質問
慣らし保育は何日間でどう進める?
標準は1〜2週間で、初日1時間半から段階的に保育時間を延ばし9日目以降通常保育へ移行します。
1〜2日目9:00〜10:30、3〜4日目昼食前まで、5〜6日目午睡まで、7〜8日目午睡明け、9日目以降通常保育という段階的スケジュールが一般的。子どもの状態や復職日で前後調整します。
慣らし保育で泣き止ませるコツは?
抱っこを惜しまずに使い、保護者の匂いがするタオルを握らせるのが一番即効性のある手段です。
抱き癖がつく説は否定されており、慣らし期間は抱っこは惜しまず使います。家の匂いがするタオルやブランケット(移行対象)は心理学的にも不安軽減効果が認められ、ピタッと泣き止む子もいます。
泣き止まないのは保育士のせい?
泣くのは異変を察知できる健全な証拠で、保育士の力量とはほとんど関係がありません。
ボウルビィの愛着理論で言うと、慣らし保育は子どもにとって安全基地から引き剥がされる体験です。泣かない方が珍しく、泣き止まないことに保育士の技術はほぼ関係ありません。自分を責めないでください。
「ママ来るよ」と声かけしていい?
時間の概念がない乳幼児には嘘になるリスクがあるため、安易に使うのは避けるのが無難です。
「すぐ来るよ」と言って実際に来ない時間が続くと、子どもは保育士への信頼を失います。「お昼前に来るからね」など具体的に・かつ守れる範囲で伝えるか、安心の言葉に置き換えるのが安全です。
初日は何時間預かるのが理想?
最短30分で切り上げてOKで、安全な場所の印象を残して帰すのが2日目以降に効きます。
無理に長時間滞在させるより、「ここは安全な場所」という印象を残すことが2日目以降の負担を圧倒的に軽くします。園のルールにもよりますが、初日は柔軟に短縮する判断が現場では推奨されます。